転写因子NFkbは、様々な入り口から入ってくる感染などの刺激を炎症性サイトカイン分泌につなげる自然免疫システムの核になる分子で、現在最も研究が進んでいる転写因子の一つだろう。ただこの経路には、canonicalとnon-canonical経路があり、私たちが現役時代に研究していたリンパ系組織の発生に関わるLymphotoxinシグナルや、B細胞成熟に関わるCD40シグナルはnon-canonical 経路を使っており、シグナルの最下流で働く転写因子もrelBやrelAと独立した経路と考えられてきた。
今日紹介するテキサス大学サウスウェスタン医学センターからの論文はこの両者をつなぐ、これまで知られなかった経路があることを示した重要な貢献で、Natureオンライン版に掲載された。タイトルは「A NIK–SIX signalling axis controls inflammation by targeted silencing of non-canonical NF-κB (NIK-SIXシグナル経路がnon-canonical NFkbを低下させて炎症を抑える)」だ。
この研究の発端は、CD40リガンドでnon-canonical経路を活性化させた骨肉腫細胞をリステリア感染させた時、感染が防がれるという現象の発見だ。Canonicalとnon-canonicalは独立していると思っていたのに、non-canonical経路も感染を防ぐ自然免疫にも関わることが示唆された。
そこでnon-canonical経路の核になる分子NIKを導入したとき活性化される遺伝子をリストし、NIKの感染防御作用を抑える分子としてSIX1,SIX2を特定する。このSIXとnon-canonical経路との関わりの発見がこの研究のハイライトで、あとは粛々と作用メカニズムを解析している。
結果をまとめると、SIXは常にユビキチン化、タンパク質分解の標的になっており、non-canonical経路の刺激でNIKが活性化された時だけタンパク質が安定化することがわかる。そして、安定化されたSIXは今度はrelB,relA療法と結合して、炎症性のサイトカインを中心に細胞免疫を低下させ、自然免疫を低下させることを明らかにしている。
最後に、SIXが体内で実際に働いていることを示すために、tamoxifenで誘導できるSIXトランスジェニックマウスを作成し、まずLPS刺激による敗血症を防ぐことができるか調べると、SIXの発現を誘導することで、完全にLPSによる敗血症症状を抑えられることを示している。
もう一つのモデルとして、肺ガン細胞の細胞死シグナル抵抗性と、SIXの関わりについて調べ、肺ガン細胞からSIXをノックアウトすると細胞死が促進することを明らかにしている。
以上の結果は、SIXがnon-canonical経路によって活性化され、両方のNFkB経路を抑える重要な分子であることを示し、NFkB経路の進化の理解とともに、将来新たな分子標的治療の開発に重要な貢献だと思う。この経路に馴染みのない人には、普通の仕事に見えると思うが、私自身はこの経路を整理しなおす意味で、勉強になる論文だった。