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3月30日 SlideSeq:組織学情報と細胞学情報の融合(3月29日号Science掲載論文)

2019年3月30日
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(この論文を含む最近の組織学的方法の革命については4月11日夕方7時より吉田医師を聞き手にYoutubeで動画解説を配信します。アドレスなどは詳細が決まってから連絡します。)

すでに「見るから読むへ」と紹介したように{in situ hybridization (http://aasj.jp/news/watch/8740) 抗体を用いた分子局在(http://aasj.jp/news/watch/8803 )}、今組織学的方法が大きく変化している。これまで見るために用いていた蛍光物質をやめ、プローブをバーコード化することで、原則組織上で検出できる分子の数の制限はなくなったと言っていい。とはいえ、このシステムはすぐ普及するとは思えないほど、組織上での一分子シークエンシングは大掛かりなシステムが必要だ。

これに対し、組織上での遺伝子解析を比較的簡単に使えるようになるかもしれないSlideSeqという技術がマサチューセッツ工科大学のグループにより3月29日号のScienceに発表された。タイトルは「Slide-seq: A scalable technology for measuring genome-wide expression at high spatial resolution (Slide-seq:高い空間的解像度情報を残したまま全ゲノムレベルの遺伝子発現を調べる普及型方法)」だ。

この研究のアイデアは2016年にカロリンスカ研究所がScienceに発表した、スライドグラスを100ミクロンサイズの異なるバーコードが貼り付けられたスポットで埋め、そこに組織を貼り付けて、mRNAをトラップさせるとともに、各場所に応じたバーコードを結合させる。その後、RNAをスライドグラスから回収して配列決定した後、バーコードのスライドグラス上の位置に応じて、遺伝子発現情報を空間的にスポットするという技術だ(http://aasj.jp/news/watch/5490)。

ただ、この技術では空間的解像度が100ミクロンと大きすぎるが、細胞レベルの大きさにプリントするのは難しい。この問題をバーコードをつけたビーズを敷き詰めるという技術で解決したのがSlideSeqで10ミクロンとほぼ細胞サイズのビーズをスライドグラスに敷き詰め、まずそれぞれのビーズのバーコードをシークエンサーを用いて決定する。すなわち、10ミクロンごとの異なるバーコードの空間上の位置決めをする。そこに凍結組織を貼り付けて、細胞ごとにRNAをビーズ上のバーコードと結合させ、その後ビーズを回収して、あとはsingle cell trascriptome解析を行う。こうして、各ビーズごとに遺伝子発現プロファイルが決定できるので、この情報をビーズの位置情報に応じて再構成すれば、組織上での遺伝子発現、細胞の種類などが高い解像度で特定できるという技術だ。

この方法だと、ビーズを敷き詰め、前もってビーズの場所とバーコードの地図を作ったスライドグラスを販売することが可能で、もちろん高価なものになるだろうが、基本的にどの研究室でも利用可能として普及できる。

少し心配する細胞の重なりなどだが、この方法ではスペースの八割で情報が得られ、その65%は単一細胞由来と考えられるということで、期待通りの解像度だと思う。あとは、特定の遺伝子の発現量をプロットしたり、細胞の種類は元より、例えば増殖細胞の特定、あるいはグリア反応など様々な機能的過程を組織状に再構成することができることを示している。

以上、このような技術があるのとないのとでは、出てくる情報の質が異なることは間違いがないが、SlideSeqが普及できるとしても、値段は高いと思う。この組織学的革命を大きなラボだけが導入できて、若い独立した研究者にハンディがつかないようぜひ対応策を考えて欲しいと読みながら思う。

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