CD8陽性キラー細胞によりガンを殺すためには、ガン抗原ペプチドがガン細胞状のMHCに提示されれば良いが、がん免疫が成立する過程ではがん細胞が発現する抗原だけで十分かどうかについてははっきりとした答えはない。多くの研究は、ガン自体も樹状細胞DCに処理され、免疫系を刺激した方が有効であるという可能性を示唆しているが、うまくコントロールされた実験系でそれを証明した研究は多くない。
今日紹介するマウントサイナイ病院Ican医科大学からの論文は、本来抗原提示能力が十分なはずのBリンパ系腫瘍をモデルに、それでもDCの関与が免疫成立に必要であることを示した論文でNature Medicineオンライン版に掲載された。タイトルは「Systemic clinical tumor regressions and potentiation of PD1 blockade with in situ vaccination(腫瘍内への免疫による全身性の腫瘍退縮とPD1阻害効果の促進)」だ。
まずDCによるcross presentationが必要であることを示すため、DCのMHCと腫瘍のMHCの一致だけが異なる凝った実験系を用いてガン免疫を調べ、ガン自体が抗原を提示できていても、ガンと同じMHCを持ったDCが存在しないと免疫が成立できないことを確認している。また、このとき働くDCはCD103陽性タイプで、これがないとPD1阻害療法にも反応しないことも示している。
すなわち、腫瘍細胞がDCにより処理され、免疫系を刺激する必要があることがはっきりしたわけで、あとは腫瘍内にどのようにDCを誘導して、ガン抗原を処理させるかが問題になる。
私も全く知らなかったが、FLT3に対するリガンドFLT3Lを腫瘍内に注射するとDCが集まってくることが知られていたらしい。この研究では次に腫瘍内にFLT3Lを注射し、これにより多くのCD103陽性DCが腫瘍内に集積することを確認している。
次は、集まったDCに癌を処理させる必要があるので、局所に放射線をあててガンを殺すのと同時にFLT3Lを投与する実験を行い、期待通りDCによるガン抗原の処理が行われることを確認する。
最後に、このDCの免疫刺激能力をさらに高める目的でpolyICをアジュバントとして用いて効果が高まること、そしてFLT3、放射線、pICで処理した上にPD1阻害治療を組み合わせると強くガンを抑制することを明らかにしている。
この前臨床研究を受けて、この研究では最後に8人のノンホジキンリンパ腫の患者さん11名を同じ方法で治療している。ただ、PD1阻害療法は今回は組み合わせていない。この治療では、末梢血中のDCも分化型に変換され、腫瘍組織へのDC浸潤も著名に見られる。
結果としては、3年近く病気が進行しなかったのは2例だけだが、半分以上は病気の進行を止めることができている。しかも、著効を示した患者さんでは、局所に治療を行っただけなのに、全身の転移巣も消失しており、全身性の免疫が成立したことを示している。著者らによると、人で局所に対する免疫治療が全身にも効果があることを示せたのはこれが初めてらしい。おそらくこれを示したいため、あえてPD1阻害療法は使っていなかったのだろう。
話はこれだけで、免疫の入り口を操作することの重要性を示し、これにガンのネクローシスと、DCの操作が重要であることを示す、新たな例になったと思う。熊本で、自らの判断でオプジーボと温熱療法を組み合わせているお医者さんと知り合ったが、これまで問題があるとされてきた免疫療法も、科学的なプロトコルへと変換できる可能性が高まったと思っている。