大きく分けて2型糖尿病は、インシュリン分泌が低下と、インシュリンに対する細胞の反応性の低下(インシュリン抵抗性)のメカニズムが関わる、多様な代謝機能が変化した状態と考えることができる。そして、インシュリンをシグナルとして細胞内に伝える受容体は、チロシンキナーゼタイプのインシュリン受容体だけしか存在しないことは確認されていた。従ってこの一つの受容体で生物のエネルギー代謝の根幹を全て調節することになるが、今日紹介するハーバード大学からの論文を読むまで、私はこの多様なインシュリンの機能がチロシンキナーゼの活性化に始まるPI3Kを中心としたシグナルカスケードで進むと思っていた。
この「Insulin Receptor Associates with Promoters Genome-wide and Regulates Gene Expression (ゲノム全体にわたってインシュリン受容体はプロモーターに結合し遺伝子発現を調節する)」と題された論文は、タイトルからわかるようにインシュリン受容体がチロシンキナーゼとしてではなく、なんと核内受容体のように働く新しい経路が存在することを示した研究で、4月18日号のCellに掲載された。
以前からインシュリン受容体が核内に移行する可能性は指摘されていた。このグループは細胞を溶解して核内タンパク質を調整する条件を工夫して、核内に存在するインシュリン受容体がどの分子と結合しているかを調べ、なんと転写を行うポリメラーゼ(PolII)と直接結合していることを発見する。この発見がこの研究のハイライトで、あとは核内へどのように移行し、どの遺伝子の発現を調節しており、これまでのシグナル経路とどこが違うのかを明らかにすればいい。
結果は、
- インシュリン受容体はαβの2種類のタンパク質からできているが、それがそのまま核内に移行する。
- この時、核膜はインポーティンを介して超える、
- 転写されている遺伝子のプロモーター上でPolII複合体の一部になっている。
- 多くの遺伝子のプロモーター上に存在するが、トップに来るのはインシュリンが関わるとされてきた脂肪代謝に関わる分子で、炭水化物の代謝に関わる遺伝子にはあまり関わらない。
- インシュリンの作用で核内に移行し、転写量を促進する。従って、インシュリンが存在しないと転写は変化しない。
- インシュリン受容体の作用は、全部ではないがほとんどの場合HCF-1の転写活性の調節を介して行われる。
- インシュリン抵抗性の肥満マウスではこの経路が低下している。
とまとめられるが、この結果はインシュリン受容体が、チロシンキナーゼ活性と、核内ホルモン受容体に似た転写促進活性の両方の経路を介して、複雑な代謝機能を調節していることを示している。肥満マウスを用いた実験から、いわゆるインシュリン抵抗性がこの経路に関わることが示されたことは、糖尿病研究がまた大きく変わる可能性を示している。さらに、インシュリン抵抗性に関わる炎症との関わりで見たとき、自然免疫に関わる細胞でこの受容体がどの遺伝子を調節しているのかを知ることは重要なテーマになるように感じた。
しかし、思いもかけないことが続々明らかになる。