ミクログリアというと、変性した神経細胞を貪食して炎症を促進するイメージがあるが、逆にアミロイドプラークを除去してアルツハイマー病の進行を止めるなど良い側面もあり、2面性を持つ。。
今日紹介するハンガリーの実験医学研究所からの論文は、神経細胞の代謝状態をモニターして守る働きがあることを示した論文で1月31日号のScienceに掲載された。タイトルは「Microglia monitor and protect neuronal function through specialized somatic purinergic junctions(特別なプリン作動接合を使ってマイクログリアは神経細胞機能をモニターし守る)」だ。
この研究はほとんどビデオモニターも含んだ形態学を中心に進められる。ただ、じっと形を見てもシナリオは浮かんでこない。それまでの様々なデータを頭に入れて、一つの仮説を立て形態学で確かめることになる。その意味で、この研究で示された結論は最初から著者らの頭の中にあったようにすら思える。
そこで今日は、実験を割愛してミクログリアと神経細胞の相互作用の方法と目的について明らかにされた結論から述べる。
この研究はミクログリアが突起を伸ばして神経細胞の細胞体と直接相互作用しているという形態学的観察から始まっていると思うが、
- この細胞同士の接触を媒介するのが分泌されたATPを感知するミクログリア側の受容体P2Y12 で、これが神経細胞からでたATPで活性化されると接触が長期間維持される。
- この安定な相互作用は、神経細胞隊のミトコンドリアの集まっている場所で形成される。すなわち、ATPはミトコンドリアの活動の指標として使われ、これによってミクログリアの神経活動がモニターされる。
- P2Y12の機能を阻害すると、ミクログリアの突起と神経細胞の相互作用が抑えられるが、同時に卒中を誘導して神経細胞変性を誘導すると、変性が強くなることから、この接触が何らかの形で神経細胞を守っていることがわかる。
- ミクログリアと神経細胞隊の接触自体は、神経細胞の小胞体と膜の融合に関わるKv2.1陽性サイトで起こり、この小胞はミトコンドリアに由来して、シナプス小胞のようにATPを運ぶ。
もう一度まとめると、ミトコンドリアは細胞の活動や細胞死に深く関わるが、この活動はミトコンドリア由来の小胞が膜に輸送されてきた場所でミクログリアによりチェックされ、主にミクログリアのATP受容体を介する活性化により、神経細胞との接触の程度を調節し、細胞を守っているという結論になる。
この結論を、主に免疫染色とビデオ、電鍵、電験トモグラフなど様々なテクノロジーを駆使して確かめている。たとえば、P2Yを抑制すると相互作用時間が低下するとか、ミトコンドリア、小胞体、P2Yなどがひとかたまりになってシナプス用構造を作るなどを示す実験だが、やはり実際の写真を見てもらったほうが早いだろう。
形態学とは何かがよくわかる研究だと思う。