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国際治験登録サイトからみる新型コロナウイルス治療法開発:我が国の治験体制は大丈夫か?

2020年2月23日

新型コロナウイルス感染の広がりをニュースとしてみていると、少なくとも我が国では情報の氾濫だけが目立つが、世界規模で医学という点から見ると着実に進展している。最も知りたいのは治療の進展だが、2ヶ月で漏れ聞こえてくる話で一喜一憂することは厳禁だ。代わりに、国際的治験登録サイトが存在し、治療法の計画段階から登録して、その計画に従って治験を行うことで効果を科学的に確かめるのが国際標準になっている。

登録サイトの中では最も信頼性があるのが米国のClinicalTrials. Govなので、新型コロナウイルスについて登録された治験がどのぐらい走っているのか、covid-19で検索をかけると、驚くことにすでに49の治験が登録されている。中にはまだ始まっていない計画段階のものも含まれるが、2ヶ月という短期間にこれだけの治験が登録されたことは、中国を中心に医学界が総力を挙げ、新しい治療法の開発に挑んでいることがわかる。今見ているサイトはhttps://clinicaltrials.gov/ct2/results?cond=&term=covid-19&cntry=&state=&city=&dist=だが、明日になればもっと増えるだろう。

どんな治験が走っているのか紹介しよう。

  • スマフォでの自己診断法 2件
  • サリドマイド 1件(肺の障害を防ぐ)
  • 臨床経過観察研究 7件
  • 検査法研究    3件
  • 漢方薬  2件
  • フィンゴリモド 免疫細胞移動抑制剤 1件
  • 副腎皮質ホルモン  2件
  • 一般薬の治験(痰の融解、インターフェロン、ビタミンなど) 4件
  • チェックポイント治療 2件
  • 抗体治験     2件
  • 抗ウイルス剤   11件
  • 細胞治療     5件 
  • 肺線維症治療剤  2件
  • マイクロビオーム移植 1件
  • 抗インターロイキン治療 1件

かなり大雑把に分類したので間違っている点があればお許しいただきたいが、中国がすべての情報を公開して、科学的治験を行おうとしている姿がよくわかる。中には、非接触型の体温測定までその効果を治験研究として申請している。当然のことながら、抗ウイルス薬の治験は多い。同じものを組み合わせたりで、薬の種類が多いわけではないが、あらゆる可能性が確かめられようとしている。チェックポイント治療やサリドマイドまであるのは驚くが、少し考えるとなかなか正しい方向だと思う。

エボラウイルス治療の知見では結局抗ウイルス薬はだめで、ウイルスに対するモノクローナル抗体が効果を示した。その意味で、回復患者さんの抗血清の結果はそのままモノクローナル抗体開発につながるだろう。

さてなぜこんな話をする気になったかというと、今日の新聞で厚労省が備蓄している日本製の抗ウイルス薬の投与を始めるという報道を見たからだ。もちろん重症化した患者さんを前に、何か治療手段をと思うのはわかる。しかし、結果がわからない治療については、すべて治験として科学的に効果を確かめないと、世界から相手にされないことは間違いない。ClinicalTrialに49の治験が登録されたという事実は、中国医学の大きな変化を物語っているが、我が国の治験は登録して行う気があるのだろうか?

報道にリークして特効薬がもらえるのではと勘違いさせ、プラセボ効果を最大限に利用するような愚かな治験をもし医療行政の府が行なっているとしたら、由々しき事態だと思う。医療先進国を自負する我が国の厚労省が、科学的治験の重要性を認識して、正しく治験を進めることを願いたい。

2月23日 完璧な抗インフルエンザウイルスワクチン (2月21日号 Science 掲載論文)

2020年2月23日

ワクチンなど有害なだけだと叫んでいるアンチワクチンキャンペーンの人たちも、流石にコロナウイルスやサーズになってくると、ワクチンはまだかと心待ちにしているのではないだろうか。実際、あれほど激烈な肺症状をおこすウイルスに感染してもほとんどの人が軽症で終わるのは、免疫系があるからだし、エボラウイルスのケースでも、結局有効性が確認されたのはウイルスに対する抗体療法だけだった。要するにワクチンによる予防は感染症に対する宝刀なのだが、まだまだ切れ味が鈍いという点に問題がある。

今日紹介するハーバード大学と上海の復旦大学からの論文はワクチンの切れ味を高める新しい方法の開発で2月21日号のScienceに掲載された。タイトルは「Pulmonary surfactant–biomimetic nanoparticles potentiate heterosubtypic influenza immunity (肺サーファクタントを真似たナノ粒子は系統を問わないインフルエンザ免疫を高める)」だ。

インフルエンザワクチンに対して疑問がでるのはその効果が決定的でないことと個人差が多いことだ。しかしこれは免疫反応の常で、ガンに対するチェックポイント治療の大きな個人差を見ればわかる。したがって反応する人の割合を上げるため、様々な免疫賦活材。アジュバントが使われるが、まだ切り札はない。また、これまでの皮下注射によるワクチン接種では、肝心の肺で働く初期の免疫反応が上手く誘導できないこともわかっている。

この研究では、この二つの課題を、肺の上皮に広がって肺の機械的運動を助け、また細胞を外界から守るサーファクタントを含む脂肪膜でできたカプセルに、自然免疫を直接刺激する最近注目のcGAMPと呼ばれるアジュバントを封入したあと不活化インフルエンザウイルスと混ぜて、吸引させるワクチンを開発している。様々なタイプを開発した結果、サーファクタントに一番近いnano4と呼ばれる吸入ワクチンが、肺のマクロファージに選択的に取り込まれることを確認している。

面白いのは、鼻粘膜などには一切取り込まれないことで、サーファクタントのある場所だけでマクロファージに取り込まれる。したがって、肺へ吸入させるためのワクチンとしては最高の性質を持つことになる。

さらにワクチンとして理想的な性質を備えている。まず、抗原とは無関係に強い自然免疫を誘導することで、初期防御だけでなく、免疫反応誘導も高まるが、リポソームに詰めたGAMPは現在使われているアジュバントと比べて高い。

また、免疫誘導能についても、従来のワクチンと比べて高い抗体反応を誘導でき、ワクチン投与マウスでは病気が発症しない。しかも、吸入してなんと2日目から強い免疫が起こり、インフルエンザの発症をほぼ完全にストップする。

なぜこれほど効果が高いのかを調べると、自然免疫が高いだけではなく、抗原反応性のキラータイプのCD8T細胞が速やかに出現する。この原因を探ってみると、リポソームを取り込んだマクロファージから、リポソーム内のGAMPが上皮へと受け渡され、上皮の自然免疫反応、さらに抗原提示能を上昇させて、速やかにCD8Tキラー細胞を誘導するからで、CD8T細胞を除去する、あるいはマクロファージから上皮への物質受け渡しを止めると初期の防御効果はなくなる。

最後に、人間に近いモデルとして使われるフェレットを用いた防御研究で、初期反応がしっかり起こり、高いレベルの抗体が誘導できると、一つの系統のインフルエンザ免疫で、他の系統に対する対応が可能になることも示している。

全て納得の極めて説得力の高い結果で、ぜひコロナも含めてワクチンのスタンダードにしてほしいと思う。ただ、人間でも同じように高い効果を示すかどうかは、やってみるしかない。ぜひ期待通りの結果が出て、一回吸入すればどんな系統が来ても心配ないというワクチンが開発されることを願う。独占してもらっていいので、ぜひコストだけは現在のレベルを逸脱しないようにお願いしたい。

カテゴリ:論文ウォッチ
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