感覚、記憶、行動など脳の研究の発展は著しいが、高等動物の場合あらゆる脳活動は意識に依存している。この意識が何かについては、DennetやKochなど多くの本が発表されているが、意外なことに意識を直接扱った論文は、トップジャーナルではなかなか目にしない。
科学から離れて自分の感覚だけでいうと、意識とは可変スウィッチみたいなもので、オフだと自分自身がその時間存在したかどうか全くわからない。すなわち、自分があるという感覚の源だ。完全に寝た時、麻酔時にこのオフの経験をしているはずだが、要するにその間自分が存在したのかどうかわからないのだ。幸い今の所覚醒することができ、その時も存在したことを推察している。オンの時は可変で様々なレベルがある。
今日紹介するウィスコンシン大学からの論文は割と自分の体験からくる意識のイメージに合致したわかりやすい研究で、4月8日Neuronに掲載予定だ。タイトルは「Thalamus Modulates Consciousness via Layer-Specific Control of Cortex(視床は層特異的皮質支配により意識を変化させる)」だ。
研究はサルを使って、マルチ電極と記録を行う比較的古典的な実験が中心で、サルを用いているということもあり光遺伝学などのハイテクは全く使われていない。そして、この研究での意識の基本定義は麻酔によって消失する活動の全てということになる。
この麻酔状態を維持しているサルのどこをどう刺激すれば、麻酔にも関わらずサルが覚醒するかがquestionで、260 箇所の刺激を繰り返した結果、視床の中央部を50Hzの高い周期の電流で刺激したときだけ、脳各部の高い周波数の活動が上がり、また行動記録からも覚醒していることがわかる。
また、様々な脳領域の記録から、視床と皮質深層の活動が睡眠も含む意識の状態と最も相関していることを明らかにしている。さらに、様々な領域間の連結性と意識状態との相関を調べ、皮質表層部と深部の活動の連結性が意識とともに上昇するが、この時の連結性は50Hzではなく8Hz前後のθ波およびα波として捉えられることを示している。
結果はこれだけで、視床の中心部に意識のスイッチの一つ(?)が存在し、50H zという早い振動で興奮すると、そこから皮質表層、皮質深層へ投射する神経を介して興奮が伝わり、これが次の引き金になって皮質深部と表層、そして逆に視床間のθ、α波を介した相互作用が起こり、意識が維持されるというスキームだ。そして、このコアの活動を基盤に、他の領域の様々な意識依存性活動が起こるという結論だ。
シンプルな実験だが、視床中央部を50Hzで刺激すると、麻酔下でも意識が回復するという結果がハイライトで、スイッチがこの辺にありそうだということはよくわかった。今後、麻酔以外の条件でこのコア領域の興奮がどう調節されているのか、研究が進む気がする。また、臨床的に意識がないまま長期間生命維持されている人の中で、この部位を刺激することで意識の回復チャンスを高められるかどうかなども面白い課題だろう。
意識について多くのことが語られているが、結局大事なのは創意工夫に基づく研究の積み重ねであることがよくわかる。