New England Journal of MedicineのWebサイトには刻々コロナウイルス感染についての情報が掲載されており、今日見られる最初のページには、米国の最初の症例、コロナウイルスの最初の感染動態、ベトナムのヒト・ヒト感染例、コロナウイルス分離、そして編集者からコロナについての論文を特別に掲載するサイトを設けたことについてのお知らせなどが掲載されている。もちろんNEJMだけでなく、多くの雑誌でもそうで、これらを眺めていると、中国の研究者たちが大車輪で研究を続け、新しいデータを論文として続々発表しているのがよくわかる。この結果、ウイルスの本態から臨床までかなりのことがすでに明らかになった。SARSを機会にシンガポールの分子生物学研究が急速に発展したのと同じで、中国の研究もこれを機会にさらに加速される気がする。
ただ唯一目にできていないのが免疫反応だが、NEJMを見るとすでにウイルス感染実験系が整備され、ウイルス粒子を精製でき、ゲノムもわかっているので今月ぐらいから発表が始まるのではと期待する。発病する人しない人などを含め、免疫反応の解析は今後ウイルスの治療法開発に必須だ。現在いくつかの抗ウイルス薬が試されているが、最終的にはワクチンと抗体治療が最も確実な方法になる。事実エボラを見ると、多くの薬剤が試されたが、結局安定的治療効果ありと判定されたのは2種類のモノクローナル抗体だけだった。コロナの場合、重症化すると急性呼吸窮迫症候群へ移行する確率が高いので、抗体治療は重要になる。もちろん、今すぐ製剤として用意するのはハードルは高いが、新型コロナウイルスが新型インフルエンザのように一般病として定着した場合、モノクローナル抗体を用意することは重要だろう。
前置きが長くなったが、今日紹介する米国感染症研究所からの論文は昨年問題になったジカウイルスとデングウイルスの両方に効果があるモノクローナル抗体を特定した研究で2月3日Nature Medicineにオンライン発表された。タイトルは「Potent Zika and dengue cross-neutralizing antibodies induced by Zika vaccination in a dengue-experienced donor (デングウイルス経験者にジカウイルスワクチン接種した時に誘導されたジカウイルスとデングウイルス両方に高い効果を示す抗体)」だ。
この研究は不活性化したウイルスを用いたワクチンの効果を調べる過程で、極めて高い反応を示した被験者が見つかったことに始まっている。調べてみると、以前に同じフラボウイルスであるデングウイルスに感染経験があり、できた抗体はデングにもジカにも効果があることがわかった。
そこで同じ人のB細胞から抗原と結合する細胞を精製し、単一細胞レベルで抗体遺伝子を116種類単離、そのうちの一つがジカウイルスとデングウイルスに共通に存在する分子に結合して、ウイルスの細胞への融合を阻止することを明らかにしている。また、動物への感染実験系でも完全にウイルスを抑えることができている。
以上の結果は、すでにデングウイルス感染を経験した人では、ジカウイルスワクチンに対する反応が高いだけでなく、ジカにもデングにも効果がある抗体が作られることを意味する。これを確かめるため、プエルトリコで同じワクチン接種を行い、デングウイルス経験者だけで両方に反応する抗体が誘導できることを示している。
この結果を今回のコロナに当てはめてみると、中国ですでにSARSに感染歴のある人は、新型コロナに対するワクチンの反応性がいい可能性がある。実際、ウイルス感染分子は両者で極めてよく似ている。従って、登録されたSARS感染経験者は、今後治療用モノクローナル抗体遺伝子探索に適している可能性がある。もちろん、現在進行中の患者さんや感染者での抗体反応の解析、そして遺伝子の単離も重要だが、この中からSARSにも新型コロナにも反応する治療用の抗体が作れるかもしれない。そして同じ抗体は、今後のまた新しいコロナにも効果がある可能性がある。
世間は大騒ぎだが、喧騒を取り除いて眺めてみると、研究は着実に進んでいるという実感がある。