好塩基球は人間の末梢血中で最も少ない白血球だが、以前はマウスには組織に常在するマスト細胞以外存在しないと言われていた。その後の研究で、マスト細胞をそのままに、好塩基球を除去する方法が東京医科歯科大の烏山さんたちにより示され、2型炎症と呼ばれるアレルギー反応を調節して、寄生虫への反応調節に重要な働きをしていることが示唆された。
今日紹介するニュージャージー州立大学からの論文は好塩基球が2型炎症に関与する際の分子メカニズムを追求した研究でNature Immunology にオンライン掲載された。タイトルは「Basophils prime group 2 innate lymphoid cells for neuropeptide-mediated inhibition (好塩基球は神経ペプチドを介するグループ2自然リンパ球に対する阻害効果を誘導する)」だ。
この研究で使われたモデルはマウスで最もよく利用される寄生虫鉤虫感染モデルで、皮下に注射した500匹の鉤虫が体内で広がる時、肺組織で見られる2型アレルギー反応を指標にしている。
遺伝子操作で好塩基球が欠損したマウスを作成すると、鉤虫の数はあまり変化しないが、肺に鉤虫が移動して誘導される2型炎症の指標、IL4,IL5,IL13の発現が肺で増強し、組織学的にも強い炎症が誘導されることがわかった。すなわち、好塩基球自体は鉤虫による炎症を誘導する側ではなく、特に全身の炎症を抑える働きがあることになる。
実際、鉤虫による2型炎症には自然リンパ球として知られる、抗原特異性のないリンパ球の一つILC2が関わることが知られており、Ragが欠損したマウスでも同じように炎症が誘導される。これらの結果から、著者らは好塩基球は鉤虫により誘導されるILC2の活性化を抑えているのではと考え、好塩基球を除去した肺での遺伝子発現を調べ、コリン作動性神経から分泌される神経ペプチドに対する受容体の発現が減少することを発見した。
すなわち、鉤虫に反応してILC2は2型炎症を起こして抵抗するが、神経から分泌される神経ペプチドはILC2を刺激して2型炎症を抑える調節役を演じている。このとき、好塩基球は ILC2上の神経ペプチド受容体の発現を高めてブレーキをかけ、炎症が行き過ぎないよう調節していることがわかった。このため、好塩基球を除去してしまうと、抑えが効かなくなり炎症がオーバーシュートしてしまう。
あとはこのシナリオが正しいかどうか確かめる実験を行い、
- 神経ペプチドはILC2に働いてIL5やIL13の分泌を抑え、2型炎症を抑える。
- このときプロスタグランジンも協調してILC2の活性を抑える。
を確認し、このシナリオが妥当であることを示している。
鉤虫感染後に好塩基球が増加することは知られていたようだが、その意義はこれまでよくわかっていなかった。この論文は、好塩基球が寄生虫をアタックするのではなく、寄生虫に対する組織反応をコントロールして組織の恒常性を維持するのに関わることを示しており、しかも神経と炎症細胞との相互作用を調節しているという、予想外の結果で、同じことが人間でも起こっているのか、ぜひ知りたいものだ。