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8月31日 2本目のX染色体がアルツハイマー病を抑える(8月26日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2020年8月31日
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哺乳動物の性染色体は女性XX男性XYだが、性とは関係ない機能を担う遺伝子も存在するX染色体からの遺伝子発現量を男女で合わせるために、女性のそれぞれの細胞でどちらかのX染色体を不活化して、男女とも一本のX染色体だけから遺伝子が発現するよう巧妙に調節されている。とは言え例外も存在し、X染色体上にあっても不活化を受けない遺伝子も存在する。

今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文はX染色体に存在するのに不活化を受けない遺伝子KDM6Aがアルツハイマー病の進行を遅らせることを示した論文で8月26日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「A second X chromosome contributes to resilience in a mouse model of Alzheimer’s disease (2番目のX染色体がマウスのアルツハイマー病モデルの抵抗力に寄与している)」だ。

一般的に女性のほうがアルツハイマー病(AD)の患者さんが多いことが知られている。しかし、一旦ADにかかると男性の方が早く死亡するし、進行も早い。この研究の目的はこの理由を明らかにすることだ。

まずADにかかると男性の方が本当に早死にするのか調べる目的で、多くの論文検索を行い、男性の方の死亡リスクが1. 63倍に増加していることを確認している。そして、アミロイドタンパク質を過剰発現させたマウスモデルでもオスの方が早期に死ぬこと、そして症状の進行が早いことを確認し、以後マウスでこの原因を確かめようと研究を進めている。

この差が性ホルモンでないことを去勢したマウスで確認し、また遺伝子操作で染色体と形質が一致しないマウスを比べた実験からY染色体がこの差の原因でないことを確かめた後、X染色体の数が原因ではないかと着想し、XXYやXOなどの個体を調べ、X染色体が2本ある場合は全てADの進行が遅れることを発見している。

こうなると当然X染色体不活化を受けない遺伝子がAD進行抑制に関わると考えられるが、この研究では遺伝子抑制を抑えるメチル化ヒストンを脱メチル化酵素Kdm6aが最も可能性が高いと狙いを絞って、研究を進めている。

期待通り、Kdm6aはメスでADの主座といえる海馬で発現が高く、またオスの海馬にKdm6a遺伝子を直接導入して過剰発現させると、空間記憶能力の低下を抑制することが明らかになった。

これと同じことが人間で起こっているかどうか確かめるのは難しいが、Kdm6aの遺伝子発現が高いSNPを持つ個体について調べると、認知症の進行が抑えられる傾向にあることがわかり、ヒトでもKdm6aの脳内での発現量がAD進行に重要であることを明らかにしている。

以上、性差というと単純にホルモンのせいにできない場合もあること、また新しい治療のためのヒントが見つかったように思う。

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