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2020年8月17日
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令和2年度 施設長研修会 

西川伸一先生講演「コロナ現象を俯瞰する」抄録

 Webにより開催:令和2年7月29日

・初めてのWeb研修

・ざくっと話しして、質問に答えていきたい

・若いころは臨床医(肺)、京大から神戸理研に移って、再生医学をやっていた。

・Medlineというサイトで検索すると、今、Corvid-19の論文が3万5千も出ている。

 皆さんがメディアで知る報道より、研究はすごく進んでる。

・いろんな不安に対してきっちり答える様々なしくみも出来てきている。

[時間経過]

・感染したか、してないかという話ではなく、大事なのはどれぐらいのウィルス量に感染しているのかということ。動物実験では少ない量で感染すると症状はほとんど出ないが、免疫はちゃんとできる。多くのウィルス量で感染し潜伏期間中にウィルスが細胞の中で増えて発症する。医療従事者の方は濃厚感染しやすい。

・症状が出るとPCR検査をするが、これも今、陰性陽性ばかり話題になっているが、実はウィルス量もPCRでわかる。いちがいに感染といっても状態は様々である。

・発症はだいたい5日だが、ではいつまで感染力があるのかという話。重症化した人のPCR検査では、長くウィルスが出続ける。しかも体のいろいろな所から出る。重症の人が家に居続けるのは危険。治療開始から陰性になるにはかなり時間がかかる。症状が軽い場合は一週間から10日で陰性になるのではないか。

[IgG、IgM 図]

・ウィルスが増えて免疫ができるのにどれくらいかかるか、抗体がどれくらいで出てくるかというと、中国のデータでは、症状が出始めてからほぼ2週間すれば、ほとんどの人に抗体が出てくる。

・1週間で出てくる人が7割くらい。このあたりが、鼻風邪で終わってしまうか、症状が進むかの違いではないかなと思う。無症状・鼻風邪の人は症状が出てから一週間で感染力はなくなる。従って、ほぼ10日くらいで安全と思う。

・コロナウィルスは、たった10個の遺伝子でできたウィルス。太陽のコロナのような形をしている。この10個の遺伝子を調べるのは現代医学ではあっという間である。実際、いつ頃からコロナが広がり始めたのかはよくわかっていないが、昨年12月には、遺伝子配列は完全にわかっていた。コロナが体のどこで、どうやって増えるのかもわかっていた。わかってないのは、僕らの免疫の状態、基礎疾患など体の状態。これらは人により違う。

[細胞の中で…増え、細胞は死ぬ]

・ウィルスはそれ自身で増えることはできない。体の中、細胞の中に入って増える。ウィルスが細胞に勝手に入ってくるということはない。細胞の中に入るために、コロナやSERSは、ACE2という分子を使っている。これは何かというと、施設の高齢者にも高血圧の方は多いが、そういう方の治療によく使われているのが、アンジオテンシン転換酵素に対する薬がいくつかある。アンジオテンシン転換酵素は血圧を上げる物質で、ACE2はそれを切断し血圧を下げる物質をつくる。また、メタボの人にもアンジオテンシン転換酵素は多い。これがわかって、循環器系の医者はACE2の薬は使えないのではないかと心配した。しかし、現在では、その種のお薬がウィルスの侵入に手を貸しているわけではないということがわかってきた。

・ウィルスが細胞にとりつく時の目印であるACE2という分子だが、今開発中の多くの薬がここを狙っている。しかし、このような細胞への入口を狙う以外にもたくさんのやり方がある。

・ウィルスは僕らの細胞のメカニズムを借りて増殖し、外へ出ていく。ウィルスの膜も細胞の中の膜も使っている。ヤドカリみたいなもの。下手に薬を使おうとすると、細胞も殺してしまう心配があるので薬が非常に作りにくい。しかし、20世紀後半からタミフルとかゾフルーザ、AIDS薬といった、いい薬が出てきた。AIDSも80年代にはかかれば必ず死ぬ病気だったが、現在はもう死ぬことはなくなった。完全にコントロールされている。

・ウィルスが働く場所を叩くという考え方で、このような薬が作られている。ウィルスがタンパク質を作ろうとするところに効く薬や、アビガンやレムデシビルといった、ウィルスが自分のRNAを複製するところに効く薬ができてきた。それ以外にも標的となるウィルスの分子があって、今、徹底的に研究されている。これらの薬は実際にはコロナウィルスに対して作られたものではなくて、タンパク質酵素阻害剤はAIDS、アビガンは新型インフルエンザ、レムデシビルはエボラウィルスに対して作られた薬である。しかし、間違いなく秋くらいには、もっとはるかに良く効く薬が出てくる。ただ、一般の方に安全に使えるかということになるとどうしても今のしくみでは時間がかかる。そういった薬の認可が進めば、最後は、かかるかもしれないけどちゃんと病気として対応できるということになる。製薬会社にとっても大チャンス。

[おそらく最初は鼻から始まる]

・実際には、まず鼻に感染する。防御も鼻が中心となる。ウィルスの侵入に関するACE2を多く持っているのが、鼻の粘液を出す細胞で繊毛がある細胞。間違いなく鼻風邪からおこる。一方、肺入口あたりのACE2はそんなに多くない。あとで問題化することが多い肺に広がっていくためには、鼻や上気道で十分増えて、肺のほうに移っていくということだろうと考えている。防御のためのマスクの意味はここにある。

(司会)ほとんどの人は鼻風邪で終わる、無症状で終わる。ということだが、私たち福祉施設で働くものにとって心配なのは、無症状の職員が施設の利用者に運んで行ってしまう、媒介してしまうことだ。無症状の場合どの程度の感染力があって、何に気をつけたらいいのか?

・上部気道から出てくるウィルスが一番怖い、無症状であっても抗体が出るまではウィルスを作っている。また、その人がウィルスを持っているかは検査しないとわからない。そうなると行政の問題とかいろんな問題が絡んでくる。もう少し別の次元で議論する必要がある。

感染症というのは基本的にはヒトからヒトにしかうつらない。例外的には中東型のMERSは最初はラクダからで、次の段階でヒトヒト感染であるが、新型コロナの場合は必ずヒトヒト感染。ヒトと会わなければ絶対にうつることはない、しかし我々は社会の中で生きており、そこを遮断するというのは、医学とは違う行政とか公衆衛生問題として対応策を考える。そこは協力できると思う。今は検査するしかない。しかし検査しても必ず擬陽性というのはある。

(司会)無症状者が感染させるのを防ぐには、布マスクかサージカルマスクどちらがいいのか?

・マスクの論文も出ているが、布マスクは、かなり性能は落ちる。施設の中にうつさないということだけを考えれば、施設の中に入るときには全員防護服を着るか、中の人が全員防護服を着るかどちらか。まあそれはできないので、うつさないという意味でマスクが必要。また、感染者がウィルス単体をばらまくことはなくて、必ず唾液・粘液を介して外に出す。エボラは汗で出てくる。体液を通して外に出るときに中心になるのは上気道だから、マスクでブロックする必要がある。

(司会)マスクには、自分にうつらないという効果はあるか?

・うつらないという効果は、はっきりいって無い。それよりも、ウィルスがついた手で体のあちこちを触るのが危険。マスクより手洗い。厚労省サイトには詳しく出ているが、もっと詳しいのは米国EPAのサイトに、Covid-19 Disinfectants というのがあって、次亜塩素酸等も含めいろいろな消毒薬の除染効果を、各社の製品単位で詳しく評価している。米国ではこれくらいのデータベースがもうできていて、日本ではこういうものを活用促進するしくみがない。保健所などがPCR検査で忙しすぎて、本来ならこういった啓発をやっていかねばならない。市民の質問にきっちり答えていくことのほうが大事だと思う。

(司会)お年寄りや職員が自然免疫を高めるにはどうしたらいいか

・運動などがいいだろうけど、いろんな方がおられるので一律には言えない。やはりウィルスを入れないようにする、特に家族が持ち込ませないようにする。家族の理解を得ることが大事。来所禁止というのを今は緩めてるわけですが、家族といえどもマスクを外すといったことが絶対ないように、協力をお願いすることが大事。

[ウィルスにかかるとどうして病気になるの?]

・ウィルスは細胞を殺していくが、いずれ免疫が勝って細胞が再生されていく。問題になるのは神経細胞の場合で、神経細胞は再生されない。小児麻痺とか脳炎はこれである。しかしコロナの場合、細胞を殺すのが問題ではない。

[サイトカインストームとは?]

・なんで病気になるかというと炎症を起こすから、といえる。ウィルスが肺の病気を作っているのではなくて、いろんな炎症反応が病気をつくっている。ウィルスに侵された細胞を体が感知して、その細胞を叩きにかかる。だから熱が出たり、いろんな症状が出る。これが行き過ぎるとどんどん悪くなっていく。だから行き過ぎるかどうかというところで病気の形が変わってくる。

[時間経過]

・一番最初に、感染して症状が出てから、軽症者はだいたい9日くらいで治る。ところがウィルスを殺しきれなかったり、ウィルスを運ぶ細胞が全身に回ったり、炎症が強すぎたりすると、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)という強い炎症になり、呼吸困難を引き起こし、血管を通って全身病となる。10日の段階ではどちらに転ぶかわからない。しかし、もう何百万という事例がたまってきているので、ある程度、治療法も見えてきている。例えば初期段階で血が固まらない処置をする等である。最初のころは何もわからなかったので、人工呼吸器にかかる患者さんが続出した。今では重症者であっても治療の方法が確立してきている。

[SnapShot:COVID-19]

・症状は、軽症、肺炎、全身に回るという3段階に分かれる。臨床的にもいろいろわかってきたので、人工呼吸器までいくケースは減ってきている。薬の使い方についても徐々にわかってきて、効果のある薬を早くから使うことが可能になってきた。病気ということであれば医者マターなので、マニュアルができ、診断さえされれば適切な治療が受けられるようになってきている。しかし病院が機能してないとダメ。行政とも相談して、どういうしくみで病院と施設が連携していくのか考えていければいいのかなと思う。

[ウィルスの生活サイクル]

・細胞への入り口をブロックする抗体さえできれば、ウィルスは二度と侵入できない。こういう治療法は抗体さえあればよい。今、たくさんの製薬会社が、回復した患者さんから取ってきた抗体を使って治療法を確立している。さらには大量生産ができるモノクローナル抗体を使った治療を目指し、秋から冬にかけ、モノクローナル抗体の治験が終わりそうで、これは間違いなく効くと思う。皆さん自分で抗体を作れる、それが免疫である。そのためにはワクチンを打つのであるが、皆さん一人一人の体がワクチンにどういう反応を示すかはわからない。インフルエンザワクチンも、Aさんはいい抗体が作れた、Bさんはうまく作れないなど予想ができない。

ところが、よく効くということが分かった人からとってきた抗体、あるいはそれを培養した抗体であれば、これは誰にでも使える。そういう意味では血清療法というのは有望そうである。

ほとんどの人が、感染後2週間もすれば抗体ができている。しかしなんで重症の人もいるのか?単純な話ではない。

[Days after symptoms onset]

発症してから2週間で抗体ができるが、なんと重症化した人のほうがたくさん抗体を作っている。どういうタイプの抗体ができてくるのかということが肝心。感染して起こることとワクチンで起こることは同じ、要するに人によって違いが出てくる、重症化する場合もあるということを覚悟しないといけない。また、重症と軽症を比べた場合、肺の中に出てくるリンパ球を見ると、炎症にかかわるT細胞とがん細胞などを殺すキラーT細胞があるが、これはがん細胞だけでなくウィルスに感染した細胞も殺してくれる。しかし重症化した人の肺の中にはなぜかキラーT細胞が少なく、炎症にかかわるヘルパーリンパ球が多い、つまり重症化した人は、たくさん抗体は作るけれど、キラーT細胞は少ないということがわかった。一方、軽症の人にはキラーT細胞はたくさんある。ウィルスに対する抵抗力があるかどうかということには、キラー細胞を作れる能力にかかっている。ということがわかってきた。

[例えば抗体だけでなくT細胞の免疫が大事]

 感染した人ではリンパ球はちゃんとコロナに反応し、細胞性の免疫はできる。米国人でも、感染していない人の半分くらいはコロナに対しリンパ球が反応できる、そこで更にキラー細胞を作れるかどうかが肝心である。シンガポールの研究ではSARSにかかった人は新型コロナに対しても免疫力が強いとか、また、動物由来のコロナに感染した人は新型コロナに対してもちゃんとした抵抗力を持っているし、キラー細胞も持っている。

 もうちょっと先の話であるが、抗体をつくるというだけのワクチンであれば間違いなくできる。但し、人間一人一人はこれまでコロナに似たウィルスにかかった履歴もあり、かかり方も違う。リンパ球が反応するためには移植抗原というのが重要だ。一人一人違う、だから臓器移植をしても他の人の組織を拒絶する。つまり、免疫反応はヒトにより違う。 そういう意味で、今後、ワクチンは効く人と効かない人が出てくる。

コロナに対し、いい抗体というのはヒトは生まれつき持ってるのではないかという考え方がある。普通、外からいろんな物質が来ると、リンパ球は突然変異を繰り返してより強い抗体を作るが、生まれつき持っている抗体の働きもすごい。ほとんどの人が鼻風邪で終わるというのも、人間は新型コロナに対してうまくできていると考えられる。一番大事なのはいい治療法をきちんと開発して、風邪と変わらないという状態にするのが、医学の務めであると思う。

ワクチンは安価だが、抗体薬となると例えばオプジーボは、100mgが10万円を超える。レムデシビルは、5日間投与して30万円かかる。どこの国でも使える医療は難しいが、少なくとも日本のような先進国では、抗体を組み合わせたような完璧な治療法を作り出せるはずだ。

まあ、あと半年頑張ってもらえればなんとかなるんじゃないかと思う。どれまでの間どうするのかというと、行政などのシステムが大事で、県老協のような組織もちゃんとできてるんだから、対応を共通化しておくとか、しっかりしたマニュアルを作っておくべき。医学としては、そう心配することはないと思っている。

(司会)もし職員、利用者、利用者家族の感染がわかったら、どんな対応をすればいいのか?

・今多分、入居されている人はまず感染してない。外側からしか来ようがない。接触が一番多いのは、職員だろうけど、症状をベースにするしかなくて、濃厚接触されたという認識がある場合、症状が出た場合。この二通りしかない。このときはPCRの結果が出るまでは、施設に来てもらっては困る。外からくる人にはすべて抗原検査がきればいいのだが、日本ではできない。それを前提としてどういうマニュアルを書くのか、それがつらいところ。

(司会)職員の家族が感染した場合、職員は施設に来てはだめなのか。

・今の状況であれば、来てはいけない。必ずPCR検査をやってもらわないといけない。そこで兵庫県がどれくらいの能力を持っているかだ。兵庫県にはシスメックスをはじめ、いい医療系の企業がある。そういうところに、「お年寄りのためにひと肌脱いでもらえないか」と、持ち掛けて、ちゃんと検査ができるような体制を独自で作れないか。施設長さんが、まず保健所に相談に行くのではなく、そういうルートがちゃんとある、そういう迅速なしくみを構築されるのがいいのではないか。Jリーグではそういう体制ができている。

 やはり社会が、どう高齢者を見守っていくのかというしくみを作る、ひょうごモデルを作るのが大事ではないか。費用も問題。今だと健康保険でいけばPCR検査は16000円くらいかかるが、もっと安価にはなっていくだろう。また、唾液で検査するならもっと迅速にできるし、そういう工夫もすべきだ。そういう会社に、別枠の検査体制をつくるためにボランティアでやってよ、と言いにいったらどうか?中継ぎはします。

(質問)職員の家族の関係者がPCR検査結果待ちの場合、職員の出勤をどう考えるか?

・何人規模の会社なのか?濃厚トレーシングができなければ、PCR検査をやるしかない。可能性ゼロでないときにどういう判断をするのか。トレーシングの結果がわかるまでは来てもらっては困る。医学としては、怖くない病気にしていくしかない。

(質問)施設内で発熱者が出た、さあ検査だ、となった場合、防護服はどうすればいいのか?

・防護服を着て病院と同じ体制をとるというのが理想だが、難しい。訓練しないと装着もできない。県老協で、感染させない方法だけじゃなく、病院搬送の優先順位とかも考えたうえで、今あるリソース前提で、感染したら、というマニュアルをつくるべき。例えば38度が4日続いたら優先的にいれてくれる病院はあるのか? 細かいところまで決めて提案していく話し合いをしたらどうか。

(記録:森田拓也)

カテゴリ:新着情報活動記録

8月17日 白血球とガン免疫(8月20日号 Cell 掲載論文)

2020年8月17日
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リンパ球が20種類を越すサブセットに分かれて、免疫の微細な調節が行われており、その中一つがチェックポイント調節であることは、かなり広く知られるようになった。しかし、白血球となるとついつい単球、好中球、樹状細胞ぐらで済ましてしまう傾向があるが、実際には単球にも様々なサブセットがあり、免疫反応や炎症に異なる役割をしていることが明らかになってきている。例えば最近の新型コロナ感染でいうと、non-classicalと呼ばれる単球が低下し、好中球から吐き出されるcalprotectinが高い人は高率に重症化することが示されており、これまでこのブログでも強調してきたような細胞性免疫だけを見ていると、思わぬ落とし穴に落ちる可能性を示唆している。要するに、感染症の理解は一筋縄ではいかない。

同じように、チェックポイント治療で一躍主役に躍り出たガンに対する免疫反応も、周りに存在する白血球により強く影響されていることがわかっている。例えばCSF-1受容体を阻害して単球の増殖を止めたり、腫瘍局所への単球の移動を止めると、チェックポイント治療の効果が高まることが明らかにされ、治験まで進んでいる方法も多くあると思う。

今日紹介するワシントン大学からの論文は単球による腫瘍免疫の抑制効果のシグナルとして、マイクログリアの活性化因子として知られているTREM2が関わることを明らかにした研究で8月20日号のCellに掲載された。タイトルは「TREM2 Modulation Remodels the Tumor Myeloid Landscape Enhancing Anti-PD-1 Immunotherapy (TREM2シグナルを偏重すると腫瘍組織の顆粒球の状況が変化して抗PD-1免疫治療効果が高まる)」だ。

この研究はTREM2ノックアウトマウスに肉腫細胞株を移植すると、正常に比べて腫瘍の増殖が低下し、この低下がCD8陽性キラーT細胞の作用を介していることの発見に始まる。

この原因を調べるためにsingle cell RNA sequencingを用いて腫瘍組織に浸潤する顆粒球系細胞の種類を調べると、正常マウス腫瘍組織で見られる単球のサブセットが大きく変化し、その結果T細胞やNK細胞の浸潤が高まることがわかった。さらに、抗PD-1抗体をノックアウトマウスに投与すると、腫瘍の増殖が完全に抑制されることも示している。ただ、残念ながらこの研究ではなぜTREM2シグナルが欠損すると、このような変化が起こるのか、またなぜTREM2が腫瘍組織で免疫を抑制するタイプの細胞浸潤を誘導するのかについては、全く解析できていない。

その代わりに、ノックアウトの代わりに抗TREM2抗体を作成して、抗TREM2抗体と抗PD-1抗体を組み合わせたガン治療の可能性を探り、TREM2抗体でもノックアウトマウスと同じようなガン浸潤白血球の状況を変化させ、肉腫モデルではほぼ全てのマウスでガンを除去することに成功している。

最後に、人間のいくつかのガンのバイオプシー標本の免疫組織学をおこない、TREM2が浸潤マクロファージ特異的に発現しており、ガン自身では発現がみられないことを確認したあと、様々なガンのデータベースを用いてTREM2の発現と予後との関係を調べ、TREM2の発現がガン組織で高いケースでは、ガンの予後が悪いことを明らかにしている。

以上、TREM2に対する抗体も、ガン治療の新しいレパートリーに加わった。手段が増えることは良いが、本当に適正価格の治療が実現できるのか少し心配になる。

カテゴリ:論文ウォッチ
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