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1月5日 唐辛子を食べると造血幹細胞が骨髄から動員される?(12月23日 Nature オンライン掲載論文)

2021年1月5日
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哺乳動物で血液は骨髄で作られるが、作られたあと、必要に応じて血中に流出していくが、このメカニズムはまだまだよくわかっていない。例えば、造血幹細胞移植のためにG-CSFを投与して骨髄から未熟な幹細胞を動員することが行われているが、 分化幹細胞だけでなく、なぜ未分化幹細胞まで移動を始めるのかよくわからない。

今日紹介するアルバート・アインシュタイン医学校からの論文は骨髄からの血液の移動に自律神経系が関わるはずだと狙いをつけて可能性を検討した論文で12月23日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Nociceptive nerves regulate haematopoietic stem cell mobilization (侵害受容神経細胞は血液幹細胞の動員に関わる)」だ。

この研究ではG-CSFで血液幹細胞を動員するシステムをベースに、この動員に自律神経系がどう関わるか調べている。組織学的には骨髄に投射している神経の多くは、痛覚に関わるとして研究されてきた侵害受容神経とアドレナリン作動性の自律神経なので、まずそれぞれの神経系を化学的に除去する実験を行い、

1)G-CSFを投与して誘導する骨髄での造血は、両方の神経を除去することで強く抑制される。すなわち、造血に骨髄内の神経系が関わっている。

2)侵害受容神経の除去だけでは骨髄増血にそれほど大きな変化はないが、造血幹細胞の末梢血への移動は、侵害受容神経を除去するだけで強く抑制できる。

侵害受容神経は神経ペプチドCGRP を分泌することが知られているので、CGPR投与実験、あるいはCGRPR受容体のノックアウト実験を行い、骨髄からの造血幹細胞の動員はCGRPが担っており、さらに血液細胞特異的受容体ノックアウト実験から、CGRPが直接血液幹細胞に働きかけて骨髄から移動させることを明らかにしている。

タイトルを見た時、おそらくストローマ細胞や血管細胞に侵害受容神経が働いて造血幹細胞が移動するという結論を頭に描いていたが、神経ペプチドが直接血液、しかも未熟な血液幹細胞に働きかけて動員するという結論は意外だった。実際、ほぼ同時に発表されたリンパ節の侵害受容体についての研究では、血管内皮、ストローマ細胞が神経に調節されることで、免疫系を外界からの刺激に備える様にすることが示されており(Cell 184, 2021: https://doi.org/10.1016/j.cell.2020.11.028)、こちらの方が常識的な結果だと思う。いずれにせよ、直接血液幹細胞に働くとすると、造血幹細胞側で何が起こっているかが問題になるが、cAMP経路を介してCGRPシグナルが伝わるという以上に、幹細胞側の変化を特定できていないのは残念だ。

代わりにと言ってはなんだが、最後にイグ・ノーベル賞ものの実験、すなわち侵害受容体を刺激するカプサイシンを多く含む食べ物(例えば唐辛子)を食べたら血液幹細胞の末梢血への動員が高まるか調べている。結果は予想以上で、G-CSFのみを投与するときと比べて、なんと2−3倍の造血幹細胞が末梢血で検出できる様になる。

結果は以上で、動きのメカニズムが特定できていないのは物足りないが、意外な唐辛子の効果を知って思わず笑ってしまった。

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