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1月22日 母親の炎症から胎児を守るメカニズム(1月15日号 Science 掲載論文)

2021年1月22日
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ある時、米国の健康保険システム(KP)の研究所から発表された妊娠時に受けたインフルエンザワクチンの子供への影響を長期的に調べた研究を読んで驚いたことがある。健康保険システムでは、医療保険を払う側と、健康管理や医療提供側が一体化しており、従って会員が健康であるほど利益が上がる。当然、妊婦さんについてもワクチンを受けてもらいたいというインセンチブが働く。結論は喘息や自閉症など様々な疾患について、インフルエンザワクチン自体は影響がないというものだったが、驚いたのはこのコホートに参加した妊婦さんたちの内訳で、25%がマスター以上の学位取得とあった点だ。これは、この健康保険組合が富裕層に傾いた構造になっていることを示すが、それとともにワクチン接種には自ら情報を収集し、それに基づいて決断するという過程が重要で、そのための教育の重要性を示していると考える。

いずれにせよ、妊娠時に感染症にかかると胎児に様々な問題が起こることは事実で、ウイルス感染の場合、現在それを防ぐのはワクチンかソーシャルディスタンスしかない。とはいえ、長い進化の過程で、この様な状況から胎児を守る方法も進化しているはずで、今日紹介するデューク大学からの論文は、これにエストロジェンシグナルが関わることを示した面白い論文だ。論文のタイトルは「GPER1 is required to protect fetal health from maternal inflammation(GPER1は母親の炎症から胎児を守るのに必要)」で1月15日号のScienceに掲載された。

母親の炎症シグナルの重要な経路は、1型インターフェロン(IFN)を介しているので、この研究では人間の上皮細胞を用いてCRISPR/Cas9ノックアウトスクリーニングを行い、IFNシグナルを抑える分子を探索し、エストロジェンのなかでもエストラジオールに反応する受容体GPER1がIFNシグナルを抑えていることを発見する。

エストラジオールで誘導され、炎症を抑えるという意味ではまさに目的に合致した分子と言え、この分子に焦点を当てて実験を行い、

  • GPER1はエストラジオールを介してインターフェロンシグナルを抑制するが、細胞自体の生存には影響がない。また、この抑制効果は特異的阻害剤G15で完全にキャンセルできる。
  • 母体にインフルエンザを感染させる実験システムで、GPER1を阻害すると、胎盤特異的にインターフェロンシグナルにより誘導される様々な分子の発現が上昇する。組織学的には、胎盤の血管内皮の脱落が見られる。
  • 妊娠中にGPER1の機能を抑制すると、それだけではほとんど影響ないが、インフルエンザ感染マウスでは、出生仔数が低下する。
  • Poly(I:C)アジュバントで妊娠マウスの炎症を誘導する系でも、炎症により誘導される出生仔数の減少がさらに悪化するとともに、胎児死亡率も大きく上昇する。

ことを明らかにしている。

結果は以上で、胎児を母親の炎症から守る仕組みの一端が明らかになった。このメカニズムははっきりしないが、転写レベルでの調節で、さらなる標的を見つけるためにも今後の研究が必要だ。幸い、GPER1に対する特異的阻害剤G15は、他のエストロジェン受容体には影響しないので、母親に炎症が見られる時など、その影響を軽減するために利用される可能性は高い。

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