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1月6日 バクテリアに対するキラー細胞を誘導できる抗生物質(12月23日 Nature オンライン掲載論文)

2021年1月6日

抗生物質の探索というと、土の中からの抗菌物質探索の様な地道な美談をついつい思い出す。しかし様々な薬剤に対する耐性菌が問題になってからは、なかなかこの作業も追いつかないため、今や多剤耐性菌は治療する術のない重要な医学問題になっている。

今日紹介する米国フィラデルフィア・ウイスター研究所からの論文は、細菌を殺すのと同時に、キラー細胞も誘導して、耐性菌の出現を止めるという、全く新しい発想の抗生物質開発を目指した研究で12月23日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「IspH inhibitors kill Gram-negative bacteria and mobilize immune clearance (IspH阻害剤はグラム陰性菌を殺すと同時に免疫による菌の除去を活性化する)」だ。

この研究の基盤にはグラム陰性菌や結核菌などの細胞が合成するhydroxy-methyl-but-enylpyrophosphate(HMBPP)がVγ9Vδ2T細胞を直接刺激する抗原になるという免疫学的な発見がある。γδT細胞はMHCとペプチドを認識するαβT細胞と異なり、B細胞の様に直接抗原を認識すると考えられているが、それぞれのV遺伝子組み合わせが認識する抗原は特定できていない。その意味で、Vγ9Vδ2Tは例外とも言える。

このとき抗原になるHMBPPはグラム陰性菌がMEP経路で細胞壁成分を合成するときの中間成分で、IspH酵素によりIPPとDMAPPに分解され、細胞壁合成に使われる。とするとIspHを阻害することで、この経路が止まり、細胞壁形成不全が起こることで殺菌効果が得られると同時に、細菌内のHMBPPが上昇し、Vγ9Vδ2Tキラー細胞を誘導することで、細菌を2重のメカニズムで殺す可能性が生まれる。

この研究ではこの可能性が実現できることを示したもので、

  • IpsHの発現をコントロールできる様にした細菌を用いて、IpsHをオフにすると、菌の増殖が止まるとともに、Vγ9Vδ2Tを刺激する活性が誘導される。
  • 次にHMBPPからIPP+DMAPPへの経路を阻害する化合物を、IpsHの立体構造をもとに設計し、それを起点に化合物を至適化、殺菌活性の強い化合物を数種類得ることに成功している。
  • この中から3種類の化合物を選び、臨床例から分離された多剤耐性菌への効果を調べると、細胞壁の機能不全に基づく強い殺菌効果を得ることができた。
  • さらにこの化合物で処理した細菌は人末梢血中のVγ9Vδ2T細胞の増殖を誘導できる。
  • 化合物と細菌だけを培養すると、当然の様に耐性菌が現れてくるが、ここに末梢血を加えると、耐性菌の発生を抑えることができる。
  • マウスにはVγ9Vδ2T細胞は存在しないので、人の免疫系で再構成したヒト化マウスを用いて感染実験を行うと、耐性菌でも多くのマウスで細菌の増殖を抑えることができた。

などの結果から、細菌を殺すと同時にキラー細胞を誘導できる抗生物質が可能であることを示している。

まだ人間に投与できる化合物かどうかはわからないが、コンセプトが証明できたことは大きい。なんと言っても、結核菌を含む多くの耐性菌の問題を解決できる。そして、さらにγδT細胞が認識する抗原を探ることで、同じ様な抗生物質を設計することも可能かもしれない。さらにγδT細胞をあらかじめ増殖させるワクチンと抗生物質を組み合わせる治療も可能になるかもしれない。

年初の初夢としては大きな夢の実現に向いた研究だと思う。

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