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1月23日 白血球の糖代謝を正常化させてボケを防ぐ(1月20日 Nature オンライン掲載論文)

2021年1月23日

老化に細胞ストレスと、それが原因の慢性炎症が関わっていることはほぼコンセンサスができている。先日紹介した東大中西さんたちの研究は、この原因になる老化細胞を積極的に除去して、全体を若返らせるSelnolysisの考えに基づいているが、これ以外にストレスや炎症を抑えるという方法も開発が進んでいる。

今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、白血球の炎症を止めることで脳の老化が抑えられることを示した研究で1月20日Natureにオンライン出版された。タイトルは「Restoring metabolism of myeloid cells reverses cognitive decline in ageing(骨髄細胞の代謝を元通りにすると老化による認知機能の低下を防げる)」だ。

この研究ではまず炎症メディエーターの一つプロスタグランジンE2(PGE2)が高齢化のマーカーになると決めて、血中マクロファージのPGE2を65歳以上と、35歳以下で比較すると、高齢者では倍以上高いことを確認する。

次に血中マクロファージをPGE2で刺激すると、EP2 受容体を介したシグナルを通して、刺激に応じて糖の分解が低下し、ミトコンドリアの酸素消費が低下する。その結果、ミトコンドリアが肥大化し、密度が高まる。このような代謝の変化はEP2の阻害剤で抑制することができ、糖代謝やミトコンドリアの状態を若いレベルに戻すことができる。

そこでCD11陽性骨髄系細胞だけでEP2をノックアウトしたマウスを作成し、高齢化に伴う脳機能は元に戻るか調べると、海馬の長期増強が正常化し、様々な記憶力テストが改善することを示している。EP2は全身に発現しているが、認知改善効果は骨髄細胞の代謝を直すだけで達成できる。

糖代謝については詳細な解析を行い、EP2刺激で糖代謝をグリコーゲン合成へとシフトさせ、糖分解からミトコンドリアでの呼吸回路が低下すること、その結果一種の低酸素ストレスが生まれ、炎症性サイトカインが分泌されるというシナリオを示している。普通は、糖経路がダメな場合、グルタミンやピルビン酸などを用いてエネルギーに使うのだが、高齢者の骨髄細胞ではこれができず、もっぱらブドウ糖だけに依存している。従って、EP2を抑制し、糖分解を戻すことはストレスを除き、炎症を抑えるのに大きな効果がある。

最後に脳にも移行するEP2阻害剤を投与する実験を行い、EP2シグナルを抑えると脳内のミクログリアの代謝も改善し、認知機能が正常化することを示している。

結果は以上で、認知機能を阻害する慢性炎症にマクロファージなどの骨髄細胞の老化が大きく関わっており、この糖代謝を糖分解の方向へ戻してやれば、ミトコンドリアにかかるストレスが低下して、炎症状態が改善し、炎症性サイトカインの分泌が低下させて、認知機能も戻せるという結果だ。

骨髄細胞というちょっと中途半端な用語を使って、脳ではミクログリアが最も重要なのかどうかがボカされている気はするが、全身へのEP2阻害剤による認知改善効果はあるので、結構期待できそうだ。ただ、EP2受容体は神経細胞を含む様々な細胞で発現しており、実際の臨床に使えるかどうか問題も多い様に思う。

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