過去記事一覧
AASJホームページ > 2021年 > 1月 > 28日

1月28日 アミノ酸リピートによるALSにガン抑制遺伝子p53が関わっている(2月4日号 Cell 掲載論文)

2021年1月28日
SNSシェア

ALSが運動神経の変性による病気であることは間違いないが、運動神経が死に至る原因は様々だ。中でも、C9orf72と呼ばれる遺伝子のプロリン/アルギニンペプチド繰り返し配列が増大するタイプは、他のリピート病と同じ様に、異常アミノ酸の毒性が原因だろうと片付けてしまっていた。

今日紹介するスタンフォード大学からの論文はC9orf72のプロリン/アルギニンリピートの細胞死の原因が、ガン抑制遺伝子p53の活性が上昇することによることを明らかにした、この分野では画期的な論文で2月4日号Cellに掲載された。タイトルは「p53 is a central regulator driving neurodegeneration caused by C9orf72 poly(PR)(p53はC9orf72poly(PR)により誘導される神経変性を促進する中心的因子だ)」。

おそらくこのグループはALSのエピジェネティックな要因を調べていたのだろう。その過程で、RNA結合分子TDP-43の変異と、C9orf72のプロリン/アルギニンリピート(PR)による神経細胞死を誘導する実験系を用いて、神経細胞死が誘導された細胞で開いているクロマチン領域をATAC-seqを用いて調べ、PRリピートによる場合のみ、多くの遺伝子のp53結合部位が開いていることを発見する。また、PRリピートを誘導した細胞で発現している遺伝子を調べても、ATAC-seqの結果と同じで、p53により誘導される遺伝子群の発現がはっきりと上昇している。

さらにp53をノックアウトした細胞にPRリピートを導入しても、細胞死は起こらないことから、p53がPRリピート導入による細胞死を調節する中心に存在することがわかる。一方、TDP-43による神経細胞死はp53ノックアウトで抑制できない。

さらに、PRリピートをアデノ随伴ウイルスベクターで導入して神経細胞死を誘導する実験モデルで、p53ノックアウトマウスは、正常マウスより倍近く長生きすることも示している。しかし、p53遺伝子の欠損は、同じ機能を持つp63やp73で代償され、またこれらの分子もPRリピート導入によりレベルが上昇するので、生存期間を伸ばせても、治すことはできない。

そこでp53以外に標的になる分子がないか調べ、p53の下流に存在する細胞死を誘導する分子Pumaをノックアウトした細胞でも、PRリピート導入による細胞死を防げることを示している。

実際にはかなり端折って紹介したが、結果をまとめると以下の様になる。

PRリピートが細胞内に蓄積すると、まだよくわからないプロセスを介して、p53などのタンパク質が安定化し、この結果下流の遺伝子が誘導される。この結果、DNAの切断がおこり、同時にpumaをふくむ様々なp53下流分子が誘導され、神経細胞死へと到る。

p53を標的にした治療はあまり現実的ではないが、Pumaを始めp53の下流分子が特定できたことで、このタイプのALSは治療戦略が立てられる可能性が生まれたのは期待できる。また、他のリピート病でも同じ可能性があるのか興味深い。いずれにせよP53が出てきたという意外性も含めて、面白い研究だが、なぜPRリピートでp53が安定化するのか、なぜ運動神経におこるのか、など新しい疑問が生まれた。無駄と思わず、わからないうちはなんでも調べてみることの大事さを示す研究だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ
2021年1月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031