現在パーキンソン病の発症には、様々な過程が関わっていることが明らかになってきた。αシヌクレインの蓄積、ミトコンドリアの新陳代謝の障害、細胞ストレス、さらには免疫機能まで示唆されている。確かに、慢性的な変性疾患は、一つの要因だけで決まるほど単純ではない。逆に言うと、パーキンソン病のリスクを抱えていても、他の要因をうまくコントロールすることで発症を遅らせることも可能になる。
今日紹介するペンシルバニア大学からの論文は細胞内のリソゾームの活性がパーキンソン病の発症に関わることを示した研究で、新しい発想の介入法のヒントになるかもしれない。タイトルは「A growth-factor-activated lysosomal K + channel regulates Parkinson’s pathology(殖因子により活性化されるカリウムチャンネルはパーキンソン病の病理を調節している)」で、1月27日号のNatureに掲載された。
この研究では最初から外部の増殖因子の影響を受けてリソゾームのpHを至適化するため、カリウムの流入を調節するチャンネルがあるはずだと考え、神経細胞のリソゾーム膜のパッチクランプを行い、カリウムチャンネルの活性を調べ、TMEM175がインシュリンシグナルの下流に存在するAKTと膜状で結合することで、インシュリンシグナル反応性のカリウムチャンネルを形成していることを明らかにした。もちろん、AKTが活性化できればどの増殖因子でも同じ効果があるが、AKTのリン酸化活性は必要ないことも明らかにしている。
この様に、リソゾーム膜のカリウムチャンネルの特定、そしてその機能を明らかにした上で、TMEM175にはパーキンソン病のリスクと相関する5%ほどの正常人に分布する多形が存在することに着目し、これらのバリアント・カリウムチャンネルの機能をさらに追求した結果、パーキンソン病発症リスクと相関する多型ではカリウムチャンネルの開きが低下していることを発見している。
最後に、この多型を導入したマウスや、TMEM175がノックアウトされたマウスを用い、カリウムチャンネルの機能が少し低下するだけで、αシヌクレインが蓄積しやすくなること、さらにはTMEM175ノックアウトマウスではドーパミン神経数が低下していることを示し、TMEM175のバリアントがパーキンソン病発症に関わることを実験的にも示している。
以上、増殖因子により調節されるカリウムチャンネルの研究から、リソゾームが最終的な掃除屋として神経細胞保護に関わると言う、しごく当たり前の話だが、病気の進行を遅らせると言う意味では、重要な標的が示された様に感じる。
さて、これは細胞の中の掃除の話だが、折しも脳全体の掃除機能もパーキンソン病のリスクになることを示す論文が中国鄭州大学から1月21日Nature Medicineにオンライン掲載された。タイトルは「Impaired meningeal lymphatic drainage in patients with idiopathic Parkinson’s disease。(髄膜のリンパ管還流がパーキンソン病の患者さんでは低下している)」。詳しくは述べないが,これまで何度も紹介した(https://aasj.jp/news/watch/3542)脳の活動で出る老廃物を脳外へと洗い流すリンパ流量をMRIで測定し、突発性のパーキンソン病の方では、流量が落ちている、すなわち老廃物の排出がうまくいっていない可能性を示した研究だ。この研究でも、人間での観察だけでなく、マウスの実験系でリンパ流をブロックすると、αシヌクレインの脳内蓄積が高まり、運動障害が出ることを示している。以前脳内の掃除は夜寝ている時行われていることを示す論文を紹介したが(https://aasj.jp/news/watch/11657)、この論文が正しければ、よく寝るなど、なんとかこのリンパ流を戻す方法を突き止めて、病気の進行を遅らせる方法を開発してほしい。以上、細胞の掃除、脳の掃除過程が、パーキンソン病だけでなく、神経変性疾患の介入ポイントになることを示す重要な貢献だと思う。