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1月27日 肺魚のゲノム(1月18日 Nature オンライン掲載論文)

2021年1月27日

2年前まで在籍していたJT生命誌研究館に入ると、まず2匹の大きな肺魚が客を迎えてくれる(https://www.brh.co.jp/exhibition_hall/hall/lungfish/)。そのうち1匹は、さらに以前に在籍していたCDBの竹市先生由来なので、肺魚には特別の親しみを感じる。ただ好みの問題を超えて、肺魚は脊椎動物の上陸作戦を知る上で重要な動物だ。陸上で歩くための四肢の原型が生まれ、さらに陸上で呼吸するための肺が最初に進化した。おそらく、上陸が始まった4億年前に同じ様な魚が存在したと考えられ、実際に化石も残っているが、現存の肺魚はたった6種類しか残っていない。

いずれにせよ、陸上への適応を考える上で極めて重要な動物だが、ゲノム解析は進んでいなかった様だ。今日紹介するドイツとオーストリアの数カ所の研究所が共同で発表した論文は、この肺魚のゲノム解析で、1月18日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Giant lungfish genome elucidates the conquest of land by vertebrates(巨大な肺魚のゲノムから脊椎動物の上陸作戦が明らかになる)」だ。

最近動物や植物の全ゲノムを初めて解析したからといって、なかなかトップジャーナルに掲載されることはない。そんな珍しい例となったこの論文を読んでいくと、肺魚のゲノムがNatureに掲載されたのが、進化的に重要な位置にあるだけではないことがよくわかった。

まずゲノムの大きさが半端ではなく、ヒトゲノムの14倍近くある。14人倍シークエンスを読めばいいと思う人もいると思うが、ほとんどお手本のない人間の14倍もあるゲノムを決めるなど、想像を超える事業だ。実際、普通の次世代シークエンサーとはことなり、一本のDNAを端から順番に読んでいくナノポアテクノロジーを使って長いスパンの配列を決定し、そこから全体のゲノムを再構成している。ナノポアを使って、PacBioのテクノロジーを使わなかったのもおそらく私には想像できない意味があるのだろう。結果、これまで動物の中で最も大きなゲノムとして知られていたアホロートルのゲノムより3割も大きな、31120個の遺伝子と、17095個のノンコーディングRNA、そして1042個のtRNA, 1771個のrRNA、そして3974個のmicroRNAを含む43Gbのゲノムがほぼ明らかになった。

確かに遺伝子やmicro RNAはヒトより多いが、14倍というゲノムサイズの違いから考えると、差はほとんどなく、コードされた遺伝子とは異なる部分の大きさがこの大きな差を作っている。その原因の一つは、イントロンが異常に大きいことだが(最大のものはDMBT1遺伝子の第一イントロンの5.8Mb)、それよりも何よりも現在も活動しているトランスポゾン、特にLINEと呼ばれるトランスポゾンが増大して、大きなゲノムを作っている。しかし、これを除くと、ゲノム構造は脊髄動物共通の構造(シンテニー)をとっている。

もちろん、上陸作戦で新たに起こったゲノム変化についても見ているが、正直いって表面を引っ掻いたという程度の結果で止まっているが、ゲノムをみるだけではわからないことも多く、今後の研究が必要だ。とりあえず示された結果を以下に列挙しておく。

  • 259種類の肺魚への進化で変化した遺伝子を明らかにしているが、その多くはメスの生殖に関わるエストロジェンなどの遺伝子。上陸と雌の生殖システムの変化はこれまで考えたこともなかったので、面白そうだ。
  • 肺の進化と共にshhの発現が、両生類型に変化する。また、肺を膨らませるサーファクタント遺伝子が進化する。
  • フェロモンを感じる鋤鼻の匂い受容体の数が増え、陸上での匂い受容体の進化の前触れになっている。
  • 四肢の発生に必須の転写因子Sall1発現パターンは肉鰭類の中では最も四肢動物に近く、またHoxc13の発現パターンもアホロートルに近づいている。
  • Hoxdクラスターのサイズは哺乳動物より大きいが、これはhoxd12以降に長いイントロンが存在するためだが、d8-d11についてはほとんどアホロートルと同じで、肺魚がルーツであることがわかる。言い換えると、アホロートルは肺魚と四肢類のちょうど中間で、その結果d13の発現場所については、アホロートルは肺魚に近く、カエルとは異なる。

以上が結果で、進化の道筋という点ではまだまだ断片的だ。ととはいえ、ただ努力賞の論文というだけでは決してなく、今後の大きな財産を残せた研究だと言える。この大きなゲノムにおじけづかず、果敢に上陸作戦の進化にチャレンジする研究者が出ることを期待したい。

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