木曜日から金曜日はNatureとScienceのウェッブサイトがアップデートされるので、今週はどんな話に出会えるかといつも楽しみだ。トップジャーナルにこだわるのはナンセンスとわかっていても、確かに面白いと思える論文に当たる確率は多い。名の通ったワイナリーにも裏切られることも多く、また名もないワイナリーにおいしいワインがあるのはわかっていても、高くても名の通ったワイナリーを買うと、高い確率で満足できるのと同じだろう。もちろん生産者(研究者)も、トップジャーナルなど気にしないよほどの実力者は別として(友人の月田さんがそうだったが)、なんとかトップジャーナルに論文を掲載したいと望んで、研究をしていると思う。かくいう私のラボでも、Natureなどのトップジャーナルにアクセプトされると上等のワインを開けた。
今日紹介するスローンケッタリング・ガンセンターからの論文も、トップジャーナルを読む期待を満足させてくれる論文の例で、1型糖尿病でβ細胞を傷害するキラーT細胞の細胞動態を解明し、自己免疫成立過程理解に新しい可能性を開いた面白い研究で、11月30日Natureにオンライン出版された。タイトルは「An autoimmune stem-like CD8 T cell population drives type 1 diabetes(自己免疫活性を持つ幹細胞様のCD8T細胞集団が1型糖尿病の原因)」だ。
極めて真面目な研究だ。誰もが利用している1型糖尿病モデルマウスNODで糖尿病が発症するまで、自己抗原として知られているIslet specific glucose-6-phosphatase catalytic subunit related protein:IGRP)由来ペプチド反応性のT細胞を、ペプチドとMHCが結合した抗原で染め、病気の進行とともに膵臓支配リンパ節と膵臓に現れる抗原特異的T細胞を丹念に追跡している。
驚くことに、病気が進むと特異的CD8T細胞の数はリンパ節内T細胞の2割にも及ぶようになる。そしてこの抗原特異的T細胞がTCF1と呼ばれるT細胞自己再生に関わる転写因子発現で、TCF-highと-lowに分けられること、リンパ節には両方存在するが、膵臓内にはTCF1-lowしか存在しないことを発見する。
Single cell RNA seqを用いた細胞分化過程の解析から、抗原特異的T細胞分化は、リンパ節のTCF1-highから、TCF1-lowへ、そして膵臓のTCF1-low細胞へと分化することを確認している。
面白いことに、同じ抗原をリステリア菌に発現させ、感染を模した実験系で誘導された抗原特異的T細胞では、同じようなリンパ組織のメモリー細胞を誘導できないことから、この現象は膵臓β細胞に対する自己免疫反応に特徴といえる(この辺の実験はかなりプロフェッショナルを感じさせる)。
Single cell転写解析から、一般的な幹細胞の自己再生に働くWntシグナルがTCF1-hig細胞でも強く効いていることから、血液幹細胞と同じように、TCF1-highから、分化したTCF1-lowへの階層性が確立しており、自己再生能力が分化に応じて低下すると考え、この可能性をそれぞれのポピュレーションの移植実験で調べている。
期待通りと言うべきか、細胞移植により糖尿病を誘導できるのはTCF1-highの幹細胞だけで、分化した細胞では一時的な細胞障害は起こっても長続きしない。さらに、このCD8T幹細胞は、血液幹細胞と同じで、1次ホスト、2次ホストと継代することが可能であることを明らかにしている。
そして、転写解析から幹細胞がリンパ節内で自己再生しつつ分化すると、様々な細胞移動に関わる分子が発現し、膵臓に移行し細胞障害性を発揮することがわかる。
結果は以上で、幹細胞から分化、そして細胞移動、最後に細胞障害と美しいまでのキラーT細胞の階層性に裏付けられて、1型糖尿病が成立していることがよくわかった。
ここまで来ると、なぜリンパ節で自己再生が維持できるのかについて解明して欲しいと思う。これがわかると、幹細胞レベルで自己免疫の成立を抑えることが可能になる。さすがトップジャーナルと思わせる、納得満足の論文だった。今度1型糖尿病ネットワークの人たちと勉強会をするので、是非知らせてあげたい。