昨日紹介したAhR結合自然リガンドは、なんと線虫と共生しているバクテリアから分離されている。どのような経緯でこのメタボライトが発見されたのか、一度調べてみようと思っているが、今もなお細菌は様々な生物活性物質の宝庫であると言うことだ。だからこそ、イベルメクチンの大村さんがいつも土壌採取して新しい細菌や生物活性物質を探し続けたという伝説ができあがる。
今日紹介する中国Fudan大学とドイツEMBLからの論文は、世界中に現存する細菌の地理的カタログを作成しようという試みで12月15日Nature オンライン掲載された。タイトルは「Towards the biogeography of prokaryotic genes(原核生物の生物地理学に向けて)」だ。
この研究は、世界各国から人間や動物の細菌叢を含む様々な環境に存在する細菌のメタゲノムデータ(その環境に存在するゲノムを、全てシークエンス解析したデータで、生データでは個々の配列がどの細菌由来かなどはわからない)を集め、この配列をつなぎ合わせて、由来する遺伝子やゲノムを再構成する膨大な作業を繰り返し、世界のバクテリア地図を作製という大きな目標を持った未来に開いた研究だ。
この論文では最初の一歩として、まず高い精度で行われ、公開された13174のゲノムデータを集めて解析している。(ちょっと気になったのが、この13174の中に我が国のデータが含まれていないように思える点だ。もしこのような研究が使って見ようと思う精度の高い配列が、もし我が国から全く公開されていないとしたら、重大な問題だと思う。)
実際には、一致する配列を探して遺伝子断片をつないでいく膨大な作業を繰り返す訳だが、コンピュータでやるとは言え大変だ。この結果、3億を超えるunigeneと呼ぶ個々の細菌に対応した遺伝子の再構成に成功している。さらに、こうして出来たデータベースが遺伝子が集まって働く機能セットと言えるオペロン構成も特定できるようになっている。
はっきり言って結果はこれだけで、この研究にはあまり含まれていない土壌のデータを加えて拡大していき、将来は大村さんのような苦労が必要ない時代を作りたいのだろう。それだけで頭の下がる研究だ。
とはいえ、これだけではあまりに素っ気ないので、こうして再構成し直したゲノムからわかることをいくつか示している。
まず、細菌はそれぞれの環境に適応して存在している結果、異なる環境で同じ細菌が見られるケースは極めて希であることがわかる。その結果、今回再構成された遺伝子のほとんどは、特定の環境にのみ存在し、異なる環境で利用できる遺伝子は全体の5%程度しかない。逆にウイルスではないが、人間の体内も含め様々な環境で生きる細菌は要注意かもしれない。
さらに、こうして再構成された遺伝子のほとんどは、種特異的で、細菌間で共通の遺伝子は少ない。すなわち、同じ環境の中でも細菌は多様化する、すなわちあまり環境による選択圧を受けないで進化している。
他にもメッセージはあると思うがこの程度にしておこう。おそらく、このデータベースはこれからも拡大するだろう。Googleが世界のあらゆる事象を網羅すると創業理念に掲げたことを聞いているが、世界のバクテリアを全て網羅するデータベースを目指した歩みが始まったのを実感できる。今度は、これをどう使うのか、アプリケーションを考える若い頭脳が必要だ。