12月11日 エクササイズの科学 II : 運動で筋肉老化が防げるメカニズム (12月8日 Science Translational Medicine 掲載論文)
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12月11日 エクササイズの科学 II : 運動で筋肉老化が防げるメカニズム (12月8日 Science Translational Medicine 掲載論文)

2021年12月11日
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昨日はエクササイズが脳を活性化するという研究だったが、高齢者にとってエクササイズが重要な最大の理由は、もちろん筋肉の衰えを防ぐことだ。事実、筋肉が進行的に衰えるサルコペニアは高齢者にとって重大な問題で、これを防ぐには筋肉運動を維持するしかないのだが、ではエクササイズが筋肉ロスをなぜ予防できるのか、そのメカニズムはよくわかっていなかった。

今日紹介するローザンヌ・EPFLからの論文は、cytorと呼ばれるノンコーディング long RNAが運動により筋肉が維持される鍵となることを、人間から線虫までのモデルと、多彩なテクノロジーを駆使して示した研究で12月8日Science Translational Medicineに掲載された。タイトルは「The exercise-induced long noncoding RNA CYTOR promotes fast-twitch myogenesis in aging(エクササイズにより誘導されるノンコーディングRNA CYTORは高齢者の速筋形成を促進する)」だ。

すでに述べたように、データベースから細胞培養、線虫からマウス遺伝子操作、そしてよくまあここまでと思うぐらい様々なテクノロジーを用いた力作で、ここまでやらないとトップジャーナルには掲載されなくなっているのかと驚いてしまう。

この研究は最初からノンコーディング longRNA(nlRNA)に焦点を当て、すでに存在する筋肉運動と遺伝子発現に関するデータベースから、運動によって誘導されるnlRNA CYTORを特定している。

次に、CYTORの発現を様々な実験系でコントロールすることで、

  1. 運動によりCYTORが誘導されると、早い筋肉運動に関わるtype II筋管形成に必要な転写プログラムが発現し、速筋の筋管形成が促進されること、
  2. CYTORがノックアウトされると、若い筋肉でも筋量が50%低下すること、
  3. 老化マウス筋肉に遺伝子操作でCYTORを発現させると、筋肉の低下を抑えることが可能であること、
  4. 元々CYTORを持たない線虫でも、CYTORを発現させると、筋肉の老化を防げること、

などを示し、エクササイズと連動したCYTORが速筋のtype II筋管誘導を介して、筋肉機能の維持に関わっていること、また老化による筋肉低下を考えるときの鍵になる分子であることを明らかにしている。

次は、運動によりCYTORが調節されるメカニズムについて、CYTORの発現と相関するSNP、rs74360724をゲノムデータ解析から特定し、これがエンハンサー領域として運動によりCYTORプロモーターに近接することで、CYTORが誘導されることを明らかにしている。残念ながら運動により働く転写因子についてはまだ特定されていないが、クロマチン構造の変化や、エンハンサーとプロモーターのルーピングまで、本当によく調べている。

そして最後は、ノンコーディングRNA,CYTORがtype II筋管誘導をプロモートするメカニズムだが、クロマチン構造の解析から、メカニカルシグナルに関わるTead1の転写が低下することを示し、ノンコーディングRNAがこの過程をどう調節できるか明確なシナリオを提出している。

一般の人にはTeadといわれても何のことかはわかりにくいと思うが、発生に興味のある研究者にとって、最後にTeadが出てくると、なるほどと膝を打って納得するシナリオだ。

本当に高いレベルの力作だと思うが、我々高齢者にとっては、なんとかこのnlRNAを細胞内で高めて筋肉老化を抑えたいと願う。また、CYTORに関わるSNPが特定できており、今後筋肉ロスが起こりやすい人とそうでない人を前もって特定できる可能性も、臨床的には重要だ。

カテゴリ:論文ウォッチ