12月31日 ゲノム考古学2題 (12月22日  Nature オンライン掲載された2論文)
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12月31日 ゲノム考古学2題 (12月22日 Nature オンライン掲載された2論文)

2021年12月31日
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同じ日にオンラン掲載された最初の考古学論文は、炭素14同位元素が太陽からの宇宙線の作用で変化することを利用して行う遺物の時代分析から、バイキングが実は貿易を生業とする民族だったこと明らかにした論文だった。

今日紹介する2編の論文は、いずれもゲノム解析によりイギリスの民族と文化を明らかにしようとする考古学研究だ。時代順に紹介する。

最初はニューカッスル大学からの論文で、新石器時代、Hazleton Northの大きな墓に埋葬されていた35人のゲノムから、家族構成を詳しく調べた研究だ。

この墓は5700年前、ちょうど牧畜や農耕が始まりかけた新石器時代に対応している。これまで、同じような墓に埋葬された人骨についての研究が行われ、例えば青銅器時代に村の女性は原則として他の村へと嫁いでいたことを示す論文を以前紹介した(https://aasj.jp/news/watch/11516)。 

ただ、この論文のように5世代にわたる同族の墓が分析出来たことはほとんど無いようで、これがこの研究のハイライトになる。研究自体はゲノムの解析と、同位元素を用いた時代測定なので詳細は省いて、面白い点を纏めて見る。

  1. 墓は50mに及ぶ長さで、それぞれ異なる入り口を持つ、北と南に分かれており、原則として同じ父親由来の5世代の家族が埋葬されている。
  2. この墓は1人の男性ファウンダーの子孫が埋葬されており、この男性以前の親族は埋葬されていない。このファウンダーは4人の女性の間で子供をもうけており、その子孫を5世代にわたってゲノムから追跡できる。このことから、父系家族が形成されていることが分かる。
  3. 基本的には男性が優先的に埋葬されており、多くの女性は、異なる形で埋葬が行われた。例えば火葬後埋葬された可能性がある。
  4. 1人の女性が、2人の男性の間で子供をもうけているケースが見られる。相手は全て、同族の男で、おそらく死別後他の男性と婚姻関係を持つことが普通に行われていた。
  5. 近親間の生殖の証拠は全くない。
  6. 北、南の墓には原則として異なる母系にわかれて埋葬が行われており、家族内での母系の重要性が示されている。
  7. 父系に全くつながらない男性も埋葬されており、養子が行われていた。すなわち、社会的父親関係も重要で、それに基づき埋葬が行われていた。

他にもあると思うが、以上が興味を引いた点で、新石器時代の家族が見事に浮き上がっくる。

もう一編の論文は英国ヨーク大学、オーストリア・ウィーン大学、米国ハーバード大学を中心に、100を超す機関が協力して調べた、青銅器時代から鉄器時代にかけて、大陸から英国への移動を調べた研究だ。

この研究では、かってない規模で、英国、および大陸から集めた多くのゲノムデータを元に、英国への移住がどのように行われたのか調べている。

我々日本人のゲノム構成は、縄文人、弥生人、そしてそれ以外の大陸からの移住者を基礎に形成されているが、それと同じように、大陸では、ヨーロッパの狩猟採取民、アナトリアから移住してきた民族、そしてウクライナステップから移住してきた民族が基礎となって現代人が形成されてきた。そして、これらの民族が英国へ移住して、先住民を駆逐する形で英国民族が形成されるが、それぞれの時代のゲノムを大陸人ゲノムと比べると、以下のことが明らかになった。

  1. 先住民と、大陸の狩猟採取民とが結合した民族クラスターが独立して存在している。
  2. 青銅器時代、英国ではアナトリア由来ゲノムの比率が徐々に高まる。一方、特にステップ由来のゲノムの割合は多様で。
  3. 平均的民族と比べて大きな遺伝子構成が異なる民族が、各地域に点在して、多様な文化を形成している。
  4. 鉄器時代に入ると、移住は減る。

以上から、青銅器時代の移動は、小規模の移動が何波にも渡って行われ、例えばヤムナ人の大規模移住のような証拠はない。また、ステップ由来の土器が広く普及するが、これも小規模移住でもたらされたことが分かる。

他にも、

  1. スコットランド人のアナトリア由来ゲノムの割合は時代を通して安定している
  2. 英国人ゲノムでのアナトリアゲノムの割合の上昇率は、オランダと良く似ている。
  3. 乳糖分解酵素が成人になっても発現し続けるラクターゼ活性持続症遺伝子の割合が、大陸より早期に広がっている。

などが、面白い話だ。予想以上に、英国が複雑な民族構成であることを示唆しており、大陸とは違った文化の背景を形作っていることがよく分かる。

以上、記録のない時代の歴史発掘が世界中で進んでいる。いろいろ問題が多いと思うが、是非我が国でも同じような歴史発掘が進んで欲しいと願っている。

今年も、毎日論文紹介を書き続けることが出来た。では良いお年を。

カテゴリ:論文ウォッチ