12月29日 ファイザー社パクスロビドの前臨床研究がようやく示された(12月24日 Science 掲載論文)
AASJホームページ > 2021年 > 12月 > 29日

12月29日 ファイザー社パクスロビドの前臨床研究がようやく示された(12月24日 Science 掲載論文)

2021年12月29日
SNSシェア

結局Covid-19に関しては、ワクチンが最初の特異的防御法となったが、変異体の出現が不可避であることを考えると、最終的にウイルスの感染や複製を抑える抗ウイルス薬の開発が決め手になる。これに最も早く対応したのが抗体薬で、リジェネロンの抗体カクテル、ロナプリーブは我が国でも大きな効果を示したことが報道されている。ただ、これもワクチンと同じで、変異体が出現すると全く効果がなくなる可能性がある。すでにFDAや我が国厚生労働省でも、オミクロン株へのロナプリーブ投与は推奨しないことが表明されている。一方、多くのSARS型スパイクに保存されている抗原受容体に対する抗体薬(ソトロビマブなど)は、まだ効果が見られるので、新しい変異株には大事な手札となるだろう。

これらに対し、いわゆる化学化合物の開発は時間がかかった。現在、モルヌピラビルがcovid-19に対する薬剤として注目されているが、以前紹介したようにこれ自身は(https://aasj.jp/news/watch/17631)covid-19特異的ではなく、RNAポリメラーゼの機能を阻害せずに、そのまま複製されたRNAに取り込まれる突然変異剤だ。個人的印象だが、最初の期待ほど、治験結果はよくないような気がする。

これを感知したのか、同じ核酸アナログで、これまで中等から重症者に使われてきたレムデシビルも、初期患者に使えることを示す論文がThe New England Journal of Medicineに掲載されていた。

600人近くの、診断後1週間以内の患者で、高齢、肥満、あるいは病気を持っているハイリスクの人に、1日目200mg、2日目100mgを静脈注射し、その後入院や死亡についてモニターしている。

結果は、偽薬投与では24人の入院に対して、レムデシビル投与群では4例と、ほぼ8割の重症化抑制に成功しているという結果だ、とすると、飲み薬にこだわらず、在庫があるのなら早めにレムデシビル投与を行うことも選択肢に入れることは重要だと思う。

いずれにせよ、結局開発に最も時間がかかったのが、Covid-19特異的薬剤で、現在米国で認可されたファイザーのMprotease阻害剤が最初に認可された薬剤になった。この薬剤の開発プロセスといえる、前臨床研究がようやく12月24日Scienceに掲載された

実は、この元になる薬剤は昨年10月に発表され、このHPでもサブナノモルレベルでMproteaseを阻害できる薬剤として、四川大学の論文とともに紹介していた(https://aasj.jp/news/watch/15255)。

今日紹介する論文では、このとき開発されたPF-00835231は、効果は高いが、薬剤として利用するためにはまだまだ問題があり、特に経口摂取可能にするためにこの化合物をベースに、Mproteinの構造と参照しながら、最終的にPF-07321332(パクスリモド)を開発するまでのメディシナルケミストリーが詳述されている。

結果得られたパクスリモドはPF-00835231と比べると親和性は一桁落ちるが、経口投与可能な使いやすい薬剤に仕上り、マウスを用いたウイルス性肺炎治癒効果も高いことを示している。

ただ、問題はCYP3A4によりどうしても薬剤が分解されてしまうことから、最終的にCYP3A4の強い阻害剤と知られ、HIVにも用いられるリトナビルを併用することで、パクスリモドの効果を高めていることが述べられている。

昨年発表された論文からほぼ1年、やはりウイルス特異的薬剤の開発には時間がかかることがよくわかった。

現在、塩野義製薬のMprotease阻害剤が治験中と報じられている。これは私の推察だが、パクスリモドと異なり、単独の薬剤として利用するのだろう。とすると、少し遅れても十分競争力があるはずで、早期申請が可能になることを期待したい。

いずれにせよ、ようやく2年たって、昔の名前も含めて、多くの薬剤が競争しながらも、covid-19との戦線に投入されてきた。塩野義の薬剤がそろったところで、そろそろ伝染病扱いから外してもいいように思う。

カテゴリ:論文ウォッチ