元旦にCovid-19をキーワードにPubMedを検索すると、213337編の論文がヒットする。1年に10万編ペースは今も維持されているようだ。とはいえ、ウイルスにしても、病気の進行にしても、最初の1年に発表された論文から受けた興奮と比べると、驚きは減ってきた。
そんな中で最近発表された、年初にふさわしいCovid-19関連の論文を探していると、今、最も関心を集めているオミクロン株ではなく、重症化の要因を探索した、ドイツ・ベルリンにあるシャリテ大学病院からの論文が目を引いた。
統一前のドイツに留学し、東西ドイツが統一されたあと、シャリテをはじめとする東ベルリンの研究所が新しく生まれ変わり、世界レベルの研究を発表するようになる発展を、メルケル首相と重ね合わせて見てきた私の個人的なバイアスもあるだろうが、今も結局分かっていない重症化の問題に、新しい切り口を発見しているのに感心した。
タイトルは「Complement activation induces excessive T cell cytotoxicity in severe COVID-19(補体の活性化が重症のcovid-19でのT細胞の過剰な細胞障害性を誘導する)」で、12月22日Cellに採択決定されたばかりのフレッシュな論文だ。
Covid-19の病態を理解するための一つの鍵が補体の活性化であることはすでに何度も報告されている。またこの結果に基づき、補体を標的にする治験が進んでおり、重症化を抑える効果があることも分かってきた。その意味で、今後新たな変異株が出てきても、抗ウイルス治療薬で重症化を防ぎ、この前線が突破されたときには、サイトカインストーム抑制だけではなく、よりメカニズムに即した治療も可能になると期待できる。
しかし、補体活性化が最終的に重症肺障害や、全身血管炎、さらには長期に続く後遺症に至るメカニズムは分かっていない。
この研究では、Covid-19の中等症、重症それぞれの患者さんと、インフルエンザや肝炎患者さんの末梢血が発現している分子を、CyToFと呼ばれる同時に何種類もの分子の発現を単一細胞レベルで調べることが出来る機械を用いて詳しく比べている。
膨大な結果なので詳細は全て割愛してまとめると、CD16と呼ばれるFc受容体を発現したT細胞がCovid-19だけで上昇し、インフルエンザや肝炎では変化しないことを発見する。そして同じサンプルを、今度はsingle cell RNAseqを用いて遺伝子発現を調べると、CD16を発現している細胞が細胞障害に関わる様々な分子を発現していることを発見する。2年間、よってたかって調べてもまだまだ新しいことが分かる重要な例だと思う。
このCD16陽性T細胞は、
- ウイルス抗原刺激で活性化されるとともに、体内での補体活性が高まると、C3a等により活性化され、キラー活性を持った細胞へと分化する。
- Fc受容体を介してウイルス/抗体・免疫複合体によっても活性化され、細胞障害性を発揮し、肺上皮細胞や血管内皮細胞を傷害すること。
- CD16陽性T細胞の上昇は、重症化例ほど著明で、また老化によっても上昇して、重症化の基盤を作ること。
- 肺炎局所への浸潤が強いこと。
- 快復後も長期に体内で維持されること。
などを明らかにしている。実際には他のマーカーもセットで、いくつかの細胞集団を特定しているのだが、わかりやすいように全てを省略した。要するに、補体による活性化、ウイルス抗原による活性化、さらにはウイルス分子と抗体の免疫複合体による活性化など、様々な要因を結びつけ、さらに後遺症問題にまで広げた疾患理解の可能性を提案している。
まだそのまま受け入れるというわけには行かないが、それでも重要な可能性が提案された。是非メカニズム研究として発展して欲しいと期待している。