評議員を務めている日独文化協会で、ドイツ領事のエーベルツさんをお招きして、ウクライナや民主主義について、講演および対談の夕べを企画します。
今回は講演料を一口2000円で皆様から頂き、それをウクライナの市民援助に使う予定です。詳細は以下のポスターに記載されています。是非ふるって参加ください。
https://readyfor.jp/projects/jpdt
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大学で研究していた頃は、自分自身でもマウスの実験やケージ掃除も行っていたので、マウスと暮らしてきたなとつくづく思うが、マウスが実験者の性別を区別しているなど、気づいていないし、考えたこともなかった。しかし、マウスを使って主にストレスを研究している研究者の間では、マウスが実験者の性別を区別し、その結果、女性が実験するか、男性が実験するかで結果が違うと言うことが気づかれていたようだ。
今日紹介するメリーランド大学からの論文は、ストレスにより誘導される鬱状態をケタミンで治療するという薬理実験でも、実験者の性別が結果を作用するメカニズムについて明らかにしようとしたユニークな研究で、8月30日 Nature Neuroscience にオンライン掲載された。タイトルは「Experimenters’ sex modulates mouse behaviors and neural responses to ketamine via corticotropin releasing factor(実験者の性別がケタミンに対する行動学的神経学的反応をcorticotropin releasing factorを介して変化させる)」だ。
おそらくこのグループは、ケタミンによる鬱状態治療について研究していたのだと思う。ただ実験を重ねるうちに、マウスが実験者の性別を嗅ぎ分けるのに気づいたというのではなく、最初から実験を行う上で、これまで指摘されていた、男性の実験者の臭いがマウスにストレスになるのではと言う問題を重視し、このメカニズムの検討から、ケタミンの作用機序へと研究を進める、面白い順序の研究になっている。
研究ではまず、皮膚を脱脂綿でこすって男性と女性を付着させ、その脱脂綿に対してマウスがどう反応するかを調べている。結果は明瞭で、男性の皮膚の臭いはマウスに強いストレスになっていることがわかる。一方で、女性の臭いは何も臭いがないのとほぼ同じだ。
男性の臭いがストレスを誘導していることは、強制水泳試験などのストレスを測定する実験ではっきりする。特に驚くのは、鬱状態をケタミンで治療する実験を行ったときで、男性の実験者が行うと、ケタミンの効果がはっきりするが、女性の実験者が行ったときにはほとんど効果が見られない。すなわち、男性の実験者と出会ったときにストレスがかかり、その影響をケタミンが軽減していることがわかる。薬理実験でこんな結果が出るとすると、ことは重大だ。
この現象の神経科学的なメカニズムを解析し、最終的に男性の臭いにより、嗅内野のcorticotropin releasing hormon(CRH)遊離神経が興奮し、これが海馬の CA1 神経に作用する回路が活性化することでストレスが生じるが、この回路がケタミンで遮断されることを明らかにしている。
実際この回路を抑制すると、男性の臭いによるストレスは消失するし、この回路を刺激すると、ストレス反応が誘導され、またそれをケタミンが抑制できることなどを示している。
以上の結果、マウスが実験者の性別を嗅ぎ分けるメカニズムが明らかになるだけではなく、ケタミンが作用する回路の一つが明らかになった面白い論文だった。もうマウスに触ることはないが、マウスを触るときには手袋をして、臭いが出ないよう、男性は注意する必要がある。