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11月8日 形質細胞の分化と維持の動態から将来のワクチンを探る(10月28日 Nature Immunology オンライン掲載論文)

2022年11月8日
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ワクチンにより誘導される免疫反応研究は、様々な制限からどうしても末梢血についてモニターされているが、抗体産生細胞は極めてダイナミックな挙動を示す。まず、抗原が入ってくると所属リンパ節の樹状細胞に抗原が取り込まれ、胚中心が形成される。この胚中心では、抗原がとどまる限りB細胞が刺激され続け、クラススイッチや突然変異が蓄積したB細胞が作り続けられる。これが、一定期間抗体産生が続く理由になる。この時、次の刺激に反応する記憶細胞も作られ、抗原刺激が止まると静止期に入って刺激を待つ。このおかげで、2回目以降の刺激に対する反応は早い。そして、これに加えて胚中心から出た抗体産生細胞は、抗体を作ることに特化した形質細胞へと最終分化を遂げると、骨髄で抗原刺激にかかわらず抗体を作り続ける。従って、この成分を維持できると、血中抗体価を刺激にかかわらず維持することが出来る。

今日紹介するオーストラリア・モナーシュ大学からの論文は胚中心から骨髄の形質細胞のリクルート動態を調べた研究で、データはシンプルだがなかなか面白い研究だ。タイトルは「Long-lived plasma cells accumulate in the bone marrow at a constant rate from early in an immune response(長い寿命の骨髄形質細胞は免疫反応の最初から定常的な割合で蓄積する)」で、10月28日 Nature Immunology にオンライン掲載された。

形質は細胞表面に抗原受容体を発現していないため、抗原特異性は細胞を固定して細胞質の抗体を調べる必要があり、解析が困難だ。この研究では、私のドイツ留学時代利用していた、NPハプテンを抗原とした免疫反応を用いることで、B細胞の分化に応じた様々な変異を容易にモニターできるようにした系をそのまま使って、突然変異の解析などを容易にしている。しかし、40年前のシステムがそのまま使われているのを見ると懐かしい。

骨髄中の形質細胞は1年以上の寿命があることが知られており、形質細胞の動態を調べるとき最も重要なのが、新しくリクルートされる細胞による置き換わり速度になる。この研究では、形質細胞特異的に細胞をラベルした後、タモキシフェン注射により分化したばかりの形質細胞をラベルする方法を組みあわせて、抗原刺激後いつ胚中心からリクルートされたのかをモニターできるようにしている。

この方法を用いることで、抗原刺激後初期から抗原特異的形質細胞が骨髄にリクルートされはじめ、その数は増え続け、2ヶ月ぐらいでプラトーに達することがわかった。

様々なモデルを立ててこの動態に関わる要因を分析すると、胚中心からコンスタントに形質細胞がリクルートされ、骨髄で生存できるニッチを奪い合うことで、それ以前に存在していた形質細胞を置き換えていくことがわかった。

また、胚中心で蓄積する抗体遺伝子の突然変異を調べると、抗原刺激後時間がたつごとに突然変異の数が蓄積し、40日ぐらいで最も高い親和性に対応する変異で絞められるようになることがわかる。

結果は以上で、

  1. 骨髄中の形質細胞は一日1.7%の割合で置き換わること。
  2. 少なくとも60日まで胚中心からコンスタントに抗原反応性形質細胞がリクルートされること、
  3. 骨髄での形質細胞は平均700日の寿命をもつこと、

などが計算されている。地味な仕事だが、胚中心から骨髄への形質細胞の動態がよくわかる研究だ。この結果から判断すると、胚中心で長期間抗体産生細胞や記憶細胞を作り続けられるようにする工夫とともに、抗原刺激後の形質細胞ができるだけ多く新しいニッチにたどり着ける工夫を組みあわせることが、ワクチン開発に重要な課題であることもよくわかる。

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