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11月16日 脳脊髄液循環に関わるマクロファージ(11月9日 Nature オンライン掲載論文)

2022年11月16日
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おそらく脳脊髄液の研究で最も驚いたのは、2013年に紹介した、睡眠が脳脊髄液循環を高め、一日の老廃物を除去してくれていることを示したRochester Medical Centerが発表したScience論文で、今もメディアでは取り上げられることが多い(https://aasj.jp/news/watch/608)。その後、この循環を支える構造などが明らかになり、このHPでも紹介してきた。ただ、このシステムに関してはまだまだ話は尽きないようだ。

今日紹介するワシントン大学からの論文は、髄膜や脳血管周囲のマクロファージが髄液循環システムの掃除屋として働いているという、組織学の極致といった論文で、11月9日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Parenchymal border macrophages regulate the flow dynamics of the cerebrospinal fluid(実質との境に存在するマクロファージは脳脊髄液の流れを調節している)」だ。

タイトルから、マクロファージが脳脊髄液の循環のポンプの働きをしているのかと思ってしまったが、先に種明かしをすると、直接流れを駆動するのではなく、管を掃除したり、駆動に関わる平滑筋を助けたりするという結果だ。

このグループは脳脊髄液が流れるルートの壁に並んでいるマクロファージに注目し PBM (Parenchymal border macrophages )(脳境界マクロファージ)と他のマクロファージやミクログリアから区別して、特定する方法を開発し、この細胞が髄液と脳実質の中間で双方から様々な物質を貪食する機能があることを確認している。

次に、この貪食能を利用して、毒の入ったリポソームを食べさせ、PBM を除去すると、MRI で測定される髄液の流れが強く抑制され、また脳内で発生する様々な老廃物が蓄積する。

次に PBM が髄液の流れにどう寄与しているかを調べる目的で、まず髄液運動の駆動力として知られる動脈の反応を、ライブイメージングを用いてPBM除去マウスで調べると、動脈の刺激に対する反応や拍動が低下していることを明らかにしている。Single cell RNA sequencing で調べると、PBM は血管平滑筋と相互作用するシステムを持ち、これを介して平滑筋運動をスムースにしていると考えられる。

この実験は、脳を開けてしまうのではなく、頭蓋を薄くして顕微鏡で見えるようにして行っており、なかなかプロの世界を感じる。同時に、PBM が高い貪食能を持つことから、様々な細胞外マトリックスが蓄積するのを抑え、通りをよくしていることも示している。

以上から、PBM は平滑筋の調子を整え、髄腔の掃除を行うことで髄液の流れを調節することがわかったが、最後に老化マウスをしらべ、この機能が低下することで、髄液の流れが落ちていること、この変化が記憶障害の原因になること、そして M-CSF を注射することでこの機能を急性には回復させられることを示している。老化で頭の掃除が出来なくなるようだ。

そして、この機能低下がアルツハイマー病につながるアミロイドβ の除去に関わることも示している。

以上が結果で、特に脳の老化を考える時には重要なポイントになるように思う。

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