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11月22日 究極のテーラーメイドガン治療(11月16日 Nature オンライン掲載論文)

2022年11月22日
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すでに紹介した様に、ガンの突然変異を解析して、個人用ガンワクチンを使う治療が確立しつつある(https://aasj.jp/news/watch/20340)。ただ、これのさらに上をいくテーラーメイド治療が発表され、驚いた。カリフォルニアのPACT Pharma社が11月16日、Nature にオンライン発表した論文で、ネオ抗原を特定するだけでなく、それに対するT細胞受容体(TcR)、それを導入したT細胞を調整してガン治療を行う究極の免疫治療の治験だ。タイトルは「Non-viral precision T cell receptor replacement for personalized cell therapy(個人用細胞治療目的のウイルスベクターを使わない正確なT細胞受容体交換)」。

前置きは抜きにして、この治験のプロトコルを列挙する。

  • ガンのバイオプシーと同時に血液を採取。
  • ガンと血液のエクソームシークエンシングを比較して、ガンのネオ抗原を特定。
  • 同じガンサンプルのRNA解析からガンで発現の高いネオ抗原を特定する。
  • これらのデーターから、一人当たり平均で352種類のガンネオ抗原となるペプチド配列を決定。
  • それぞれのペプチド配列、β2ミクログロブリン、HLA遺伝子を融合させた遺伝子ライブラリーを作成、それを293細胞株で合成させる。最終的に一人の患者さんあたり100種類のペプチドを合成する。
  • それぞれの融合ネオ抗原/HLA複合体をバーコードと蛍光色素でラベルし、これを用いて患者さんのT細胞から、ネオ抗原特異的T細胞を分離、このT細胞のTcR遺伝子をクローニングする。
  • 一人当たり、3種類のネオ抗原特異的TcR(α、β受容体遺伝子)をプラスミドベクターに導入。
  • 患者さんのT細胞をTcRα遺伝子のガイドRNAとCAS9で、カットし、同時に7)で調整したTcR遺伝子プラスミドを導入することで、元のTcRをネオ抗原特異的TcRに置き換える。
  • こうして作成したTcRをネオ抗原特異的TcRに置き換えたT細胞の反応性をテストし、機能的キラー細胞を調整する(だいたい形成した半分がネオ高原に反応する)。
  • こうして作成したT細胞を、様々な濃度で患者さんに注射、途中でIL2皮下注射を行い、体内でどの程度維持されるか、ガン組織に移行するか、安全か、そしてガンを抑えることができるかなどを調べている。

以上から分かる様に、ネオ抗原どころか、クリスパー(しかも相同組み替えまで用いて)を用いたガン特異的キラー細胞まで作ってのけている。驚くのは、この全ての過程を平均163日、5ヶ月で終わらせていることだ。また、今後改良を重ねることでさらにスピードアップできるようだ。

結果だが、10億個に増幅して移植したネオ抗原特異的T細胞は末梢血の20%までを占める様になる。また、移植後バイオプシーできた患者さんで、全てガン組織に移行している。他にも、末梢血とガン組織で様々なパラメーターを調べているが、省略していいだろう。結論としては、安全で皮下IL2注射で体内で増幅維持させることができる。

気になるガンに対する効果だが、以上のプロトコルを進めている間に、ガン抗原が変化したり、HLAが消失したりする患者さんもいる。とはいえ、半数以上の患者さんでガンを抑える効果が見られたことも示している。

最終的な評価や、CAR-Tやワクチン療法との比較は今後の課題だが、この複雑なプロトコル自体を全ての患者さんでやり遂げていることが驚きだ。このプロトコルでは、ネオ抗原免疫を組み合わせることも可能なので、あとは時間とコストだけの問題になる。

ガン免疫治療もついにここまで来たことを実感できる重要な貢献だ。

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