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11月19日 アルツハイマー病をもう一つのアミロイド蛋白質 Medin から眺める(11月16日 Nature オンライン掲載論文)

2022年11月19日
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アルツハイマー病(AD)というと、βアミロイドやTau蛋白質を中心に研究が進んでいるが、最近は様々な多因子の影響を調べる研究が進み、病気のメカニズムも単純に蛋白質の凝集による神経細胞死だけではなく、様々な細胞が絡み合う複雑な状態であるという認識が中心になってきた。研究は大変だが、病気の標的が増えることは、患者さんにとっては朗報になる。実際、昨日紹介した APOE4 による AD 悪化メカニズムについての論文は、神経繊維をインシュレートしているミエリン障害も AD 症状に貢献していることを明らかにした。

今日紹介するドイツチュービンゲンの神経変性疾患研究センターからの論文は、私も全く思いもかけなかったアミロイド蛋白質の一つ Medin が βアミロイドと重合して血管機能を低下させることも AD 発症に関わることを明らかにした、重要な論文で11月16日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Medin co-aggregates with vascular amyloid-β in Alzheimer’s disease (Medinはアルツハイマー病血管のアミロイドβと凝集する)」だ。

アミロイドーシスと呼ばれる蛋白質沈着を起こす蛋白質は20種類以上知られているが、今日紹介する論文が注目してきたアミロイド蛋白質は MFG-E8 と呼ばれる分子から切り出される Medin と呼ばれるアミロイドで、実は私にとって全く初耳のアミロイド蛋白質だ。Medin は主に血管周囲に沈着し、年齢とともに血管が硬くなる原因として研究されてきたようだ。

この研究では、Medin が脳に発現していること、また AD で凝集が高まることが知られているため、AD の病因の一つ βアミロイドと直接相互作用して AD を悪化させているのではと着想し、マウスADモデルに Medin が出来ないマウスを掛け合わせ、Medin の影響を調べている。

驚くべき結果で、Medin が出来ないマウスと ADマウスを掛け合わせると、特に血管周囲で βアミロイドプラークの形成が強く抑制されることが明らかになった。

また試験管内で組み替え蛋白質を用いた研究で、βアミロイド蛋白質の凝集を Medin が促進することを確認している。以上の結果は、少なくとも βアミロイドによるプラーク形成に Medin が深く関わっていることを示した。

そこで、ヒトAD脳組織を集め、Medin との関わりを調べると、Medin と βアミロイドは一つのコンプレックスを形成していること、またアミロイドプラークの多いAD患者さんでは MFG-E8 の血管周囲での発現が著明に上昇していること、そして Medin の量と認知機能が強い相関を示すことを明らかにしている。すなわち、Medin の量と凝集は AD の症状と比例することから、

最後に AD モデルマウスに Medin 凝集を含む分子を老化血管から集めて注射すると、βアミロイドと凝集してプラーク形成を高めることを明らかにしている。

以上の結果は、ADの病態、特に血管周囲の Medin とアミロイドβ との凝集が深く関わっていることを示している。ヒトでは Medin の発現が血管周囲に限定されているため、βアミロイドとの相互作用は血管上で起こることから、これによるプラーク形成は、神経実質より、血管の異常を誘導して、アルツハイマー病に関わっている可能性を示唆する、重要な貢献だと思う。

このように昨日の APOE4 も今日の Medin も、ADの病像の重要な部分が神経繊維、すなわち白質障害である可能性を示唆しており、今後ADの新しい治療標的が現れるのを予感させる。

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