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11月26日 C型肝炎薬ソフォスブヴィルと抗不整脈薬アミオダロンはなぜ最悪の飲み合わせになるのか(11月22日 Cell オンライン掲載論文)

2022年11月26日
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C型肝炎薬のソフォスブヴィルは、核酸のアナログとして肝炎ウイルスの RNAポリメラーゼを阻害する。Covid-19で言えば、モルヌピラヴィルやレムデシビルに当たる薬剤だ。この薬剤の登場は、C型肝炎治療を一変させたが、不整脈治療を受けている患者さんで、強い徐脈が誘導され、その結果死亡例が出たことで、不整脈に処方されるカルシウムチャンネル阻害剤との飲み合わせは、禁忌になっている。ただ、なぜこの様な副作用が起こるのか、よくわかっていなかった。

今日紹介するプリンストン大学と武漢大学からの共同論文は、カルシウムチャンネル分子とそれぞれの薬剤の結合像をクライオ電顕で解析し、なぜ両方の薬剤が集まると、強いチャンネルブロックが起こってしまうのかを明らかにした研究で、11月22日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Structural basis for the severe adverse interaction of sofosbuvir and amiodarone on L-type Ca v channels(ソフォスブヴィルとアミオダロンの相互作用が L型カルシウムチャンネルに働いて重篤な機能阻害を誘導する構造学的解析)」だ。

研究は単純だが、もちろん構造学のプロの仕事だ。L型カルシウムチャンネルを精製して薬剤と反応させ、薬剤とチャンネル分子の相互作用をクライオ電顕で解析している。見たらわかるようにデータが示されており、素人でもよくわかる。私も全くの素人なので、素人の目で紹介したいと思う。

さて、構造が明らかになると結論は単純ではっきりする。当然アミオダロンはカルシウムチャンネル阻害剤なので、チャンネル部分に入り込んでチャンネル機能を塞ぐことが出来る。しかし、完全に塞ぐわけではなく、穴の一部だけが塞がれるといった状況になっている。もちろんチャンネルを完全に阻害するわけにはいかないことを考えると、うまく出来ていると思う。

ところがこれにソフォスブヴィル、あるいはそのアナログ MNI-1 を加えると、それまで L型カルシウムチャンネルとは反応しなかったこれらの薬剤が、チャンネル深くに入り込んで、アミオダロンと直接相互作用を行い、あたかも一つの分子であるよう振る舞い、完全にチャンネルを塞いでしまうことがわかった。カルシウムが完全に遮断されると、不整脈を抑えるどころか、ペースメーカーの活動が強く抑えられ、徐脈が起こってしまうと言うわけだ。まさに見ることの重要性がわかる。

結果はこれだけで、両方の薬剤が合わさるときの危険性について、構造解析ならの明快な回答が示された。また、ソフォスブヴィルの光学異性体を用いると、分子内でのアミオダロンとの相互作用はなく、全くチャンネル阻害がない。即ち、全て特定の分子構造に依存している。

このような分子同士が直接標的分子内で相互作用するというのは極めて特殊なケースだと思うが、素人にもわかりやすく、構造解析の重要性がよくわかった。

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