過去記事一覧
AASJホームページ > 2022年 > 11月 > 12日

11月12日 ガンのゲノム・遺伝子発現・組織学を統合する(11月9日 Nature オンライン掲載論文)

2022年11月12日
SNSシェア

現在のガン研究の一つの焦点は、ガン組織の中で発生する多様性と、その転移や浸潤といった生物学的意義を特定し、ガンの治療抵抗性を防ぐ手段を開発することだと思う。私たちが現役の頃は、この重要性はよくわかっていても、それを調べる手段が限られており、ガンの中の多様性を見つけることすら困難だった。

しかし、DNAシークエンスパワーが上がり、同じサンプルを高いカバレージでシークエンスすることで、変異のリストを作成することが容易になり、また single cell RNA sequencingの登場で、変異とその転写に対する影響が詳しくわかるようになってきた。後は、組織というガンの究極情報とそれらを統合することになるが、ここでも多くの技術革新が進み、やる気と資金があれば誰もがこの課題にチャレンジできるようになっている。

今日紹介するウェルカムトラスト・サンガー研究所、ストックホルム大学、そしてドイツ ガン研究所からの論文は、3年前「組織学のバーコード革命」としてYoutubeで解説した(https://www.youtube.com/watch?v=k4YMvL46ksQ)、新しい in situ hybridization法を用いて、ガンの変異や遺伝子発現の変化を組織上にマッピングした研究で、11月9日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Spatial genomics maps the structure, nature and evolution of cancer clones(ガンの構造、性質、そして進化についての空間的ゲノムマップ)」だ。

この研究では乳ガン組織の凍結連続切片を作成し、一部を全ゲノム配列解析に回し、組織中に存在する突然変異を特定している。この特定した変異について、変異をカバーするプライマー、正常をカバーするプライマーを用いて組織上で増幅、そのプライマーのバーコードを利用して、組織上に様々な遺伝子について、変異細胞のマップを形成している(詳しくは上で紹介したYoutubeを見て欲しい)。

そして、残った組織切片を組織学や、やはりバーコードを用いた多数の遺伝子発現を同時解析する方法を組みあわせて、変異マップに重ねることで、形態や遺伝子発現の変化を組織上で統合している。

勿論厳密に言えば、同じ細胞を追いかけているわけではないが、連続切片は病理検査で普通に行われており、十分統合的データが得られているのではないだろうか。いずれにせよ、方法自体はずいぶん前に開発されていても、それを使いこなしてデータをとるためには何年も時間がかかるのがわかる。

では統合されて何がわかったのか?率直に言うと、示された結果は既に指摘されてきたことだが、それが実際にデータとして示されたことが重要だと思う。

例えば、乳ガンの場合、上皮様構造を持つガン組織と浸潤性のガン組織に加えて、良性の増殖像など様々な組織像が組み合わさっている。それぞれ、遺伝子発現に差が認められるが、浸潤性の細胞に認められるPTEN遺伝子変異をたどって見ると、既に上皮様構造組織で見られており、細胞形態と必ずしも一致するわけではない。

また、Ki67など増殖マーカーの発現やクローン解析と統合すると、ガンの進化を追いかけることが出来る。すなわち、増殖性が獲得されたあとでも、上皮様ガン組織には様々なクローンが混在することがわかる。そして、その中の一部が特定のクローンに占拠される様子が、一つの組織の上で視覚化される。

最後にリンパ節転移についてみると、クローンによりリンパ節内での形態が大きく異なり、さらに周りの細胞を見ると、リンパ球に取り囲まれるクローンと、白血球により取り囲まれるクローンに分かれることが示されている。

以上、ガンは極めて多様で、周りの組織と相互作用して、形態的にも遺伝子発現でも、ゲノム変異を超えた多様性を示すというのが結論になる。

おそらくこれは手始めで、例えば前立腺ガンのように、急激な悪性転換が起こるようなガンを調べることで、これまで予想しなかった話も生まれるような気がする。

カテゴリ:論文ウォッチ
2022年11月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930