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3月2日 歯周病がリウマチの引き金になる可能性(2月22日号 Science Translational Medicine掲載論文)

2023年3月2日
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歯周病が慢性炎症としてさまざまな全身疾患にかかわることは疑う人がいないが、それぞれのメカニズムについてはまだまだ研究が必要だ。今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、口腔粘膜の破れから侵入した口内細菌が炎症を誘発してリウマチを悪化させるだけでなく、シトルリン化された細菌性分子で免疫を刺激することで、リウマチ特異的な自己抗体を誘導するという研究で、2月22日 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Oral mucosal breaks trigger anti-citrullinated bacterial and human protein antibody responses in rheumatoid arthritis(口腔粘膜の破れが、リウマチ性関節炎でシトルリン化された細菌性および内因性タンパク質に対する抗体反応を誘導する)」だ。

このグループはリウマチ性関節炎に特徴的なシトルリン化されたタンパク質に対する自己抗体の産生機構を研究する中で、歯周炎の患者さんでリウマチが悪化することに着目し、口内細菌とリウマチとの関係を探り始めている。

まず、末梢血中の RNA の中に、口内細菌由来の RNA を発見するためのデータ解析システムを開発し、健常人ではほとんど存在しない口内細菌由来 RNA が、歯周炎を併発しているリウマチ患者さんで検出できることを確認している。すなわち、口内細菌は粘膜の破れを通ってホスト血中に侵入、免疫反応を起こしている。

次にリウマチの症状との相関を調べ、歯周炎を持つ患者さんのみに見られる症状悪化に関わる遺伝子を特定するのに成功している。歯周病関連として特に目立つのが顆粒球が感染に反応する遺伝子群で、ホストに侵入したバクテリア自身が、全身及びリウマチ病変の強い炎症反応を誘導していることを明らかにしている。

このように、歯周炎により口内細菌が免疫系を刺激するとすれば、当然抗原特異的免疫反応を誘導し、またこの反応がホスト抗原とも交叉すると、自己抗体を誘導してリウマチ自体の原因になり得る。すなわち、このグループが研究してきたシトルリン化分子に対する自己抗体も、口内細菌に対する反応で誘導される可能性がある。

そこで、リウマチ患者さんの自己抗体で、特に繰り返す刺激により突然変異を重ねた自己抗体と、バクテリアとの反応を調べると、シトルリン化された自己抗体に反応する抗体の多くが、シトルリン化されたバクテリア分子とも広く反応することを明らかにしている。

では、口内細菌のシトルリン化はどのように行われるのか。まず、シトルリン化酵素を持つ口内細菌が存在し、例えば歯周病菌として最も有名な P.gingivalis がそれに当たる。ただ、シトルリン化酵素を持たない細菌でもその分子がシトルリン化されていることも明らかになった。これは、歯周炎に集まる、最もシトルリン化作用の強い顆粒球から遊離した酵素によると考えられる。

以上の結果、口内細菌は自然免疫誘導だけでなく、特にシトルリン化自己抗原に対する反応を誘導することで、リウマチの悪化に関わることが明らかになった。

最後に、患者さん由来シトルリン化抗原に対するモノクローナル抗体の、自己抗原及びバクテリア抗原に対する親和性を比べ、一部の抗体は間違いなくまずシトルリン化されたバクテリアに対して誘導され、それが自己抗原と反応する、すなわちリウマチの引き金になっている可能性も示している。

以上が結果で、要するに歯周炎にならない様に毎日歯磨きに励めという結果だが、歯周病ではなく、リウマチを研究しているグループからこの結論が生まれたことが重要だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

3月1日 ファスティングの意外なリスク(2月23日 Immunity オンライン掲載論文)

2023年3月1日
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ファスティングはカロリー制限だけでなく、内分泌系のバランスなどに影響することで、特に体の代謝を変化させ、健康維持に貢献することは広く知られるようになってきた。しかし、今日紹介するマウントサイナイ・アイカーン医科大学からの論文は、24時間ファスティングでの白血球の動態を調べ、ファステイングに潜む意外なリスクを示した研究で、2月23日 Immunity にオンライン掲載された。タイトルは「Monocytes re-enter the bone marrow during fasting and alter the host response to infection(単核球はファステイング時に骨髄に戻り感染に対する反応を変化させる)」だ。

この研究では24時間ファスティングを行ったとき、各組織に存在する血球が変化するかどうかを、末梢血を含む16組織について調べている。この実験を着想したことがこの研究のハイライトで、この結果 Ly-6 の発現が高い単核球だけが、ファスティング後4時間で、末梢血から骨髄へと移行することが最も目立った変化であることがわかる。

ファスティングにより単球に起こる変化を調べると血球の移動を調節する CXCR4 が上昇しており、またこの上昇はファスティングによるストレスでステロイドホルモン分泌される結果であることをさまざまなノックアウトマウスを用いて明らかにしている。

以上の結果は、ファスティングという異常事態に備えて、単球を骨髄にしまっておくといったイメージになるが、24時間後に食事にありつくと新しく作られた単球と共に末梢血へ遊離されることを明らかにしている。

異なる時間に増殖していた単球を標識することで、造られたばかりの単球と、老化した単球を区別する実験を行うと、末梢の単球を骨髄に待機させているファスティング中には増殖が低下する結果、食物にありついた後末梢血に遊離される単球は老化した単球の割合が上昇することが分かった。

最後に、24時間ファスティングによりおこった末梢血中の単球の変化の影響を、炎症と感染について調べ、老化した単球が増えることで組織中の炎症が起こりやすくなること、また逆に緑膿菌に対する抵抗性が低下することを明らかにしている。

以上が結果で、「ファスティングは、ストレス反応を介してフレッシュな単球増殖を抑え、古い単球を使い回すメカニズムを発動させるため、感染への抵抗性を低下させるリスクがある」というのが結論になる。

この結果を認めた上で、代謝改善のためのファスティングにとって重要な今後の研究は、ファスティングによるストレスの原因を明らかにし、これを防止しながらファスティングを行う方法の開発だろう。もし血中グルコース低下だけがストレス反応の引き金なら、リスクを回避するのは難しそうだ。しかし、食べれないという精神的なものが大きいなら、対策は可能だ。ファスティングに効果があるなら、ぜひファスティングによるストレスを抑える方法も開発してほしい。

カテゴリ:論文ウォッチ
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