7月1日 加速するやせ薬の開発(6月28日 Nature オンライン掲載論文)
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7月1日 加速するやせ薬の開発(6月28日 Nature オンライン掲載論文)

2023年7月1日
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昨年6月GLP-1受容体作動剤が糖尿病治療のみならず、やせ薬としても大きな効果があることを示した大規模治験論文を紹介したが(https://aasj.jp/news/watch/19826)、その後も相次いで同じ作用を持つ薬剤のやせ薬としての効果の報告が続いた。昨日の日経新聞を読むと、米国では一般の人もやせ薬に注目する様になり、この結果ノボノルディスクやイーライリリーの株が大きく値を上げているらしい。

人間の欲望を考えると、当然第二第三のやせ薬の開発を狙うのは当然で、その候補として注目されているのがGDF15だ。今日紹介するカナダ・マクマスター大学からの論文は、GDF15の作用をマウスを使って厳密に調べ、食欲抑制のみならず、筋肉でのエネルギー消費を維持することで、健康的なやせ薬としての可能性があることを示した研究で、6月28日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「GDF15 promotes weight loss by enhancing energy expenditure in muscle(GDF15は筋肉でのエネルギー消費を高めて体重減少を促進する)」だ。

GDF15についてはこれまでも何度も紹介してきたが、例えば抗ガン剤で食欲が低下する重要な原因となっている(https://aasj.jp/news/watch/14484)。これを逆手にとって、GDF15を投与して食欲を抑えやせ薬として利用する可能性が追求され始めているが、GDF15が実際には多彩な作用を持つこと、脂肪肝を逆に誘導する可能性が指摘されたりして、今後臨床へと発展させるためには、これらの問題を視野に入れたGDF15投与実験が必要で、この課題にチャレンジしたのがこの研究だ。

GDF15作用解明を難しくしているのが、食欲が落ちた結果のダイエット効果と、それ以外の効果を調べる必要がある点で、このためGDF15群はpair-fedと呼ばれる、前の日低下した分を次の日に摂取させる方法を用いている。

まず、GDF15を毎日一回注射すると、40日で体重は24%減少する。一方pair-fedグループでも体重変化は少ないものの、脂肪食でも体重の増加はない。すなわち、ダイエット効果に加えて何らかの効果がある。問題はGDF15の受容体GFRALが神経細胞特異的である点で、脂肪細胞や筋肉細胞にGDF15は直接作用できない。

そこで、食欲抑制中枢以外の作用点を探ると、自律神経を介して働いていることを突き止める。しかも、脂肪細胞への作用ではなく、筋肉細胞のアドレナリン受容体のシグナルを介してエネルギー消費が維持されていることを突き止めた。さらに詳しく調べると、筋肉がβアドレナリン受容体からのシグナル刺激を受けることで、脂肪代謝上昇、酸素消費量上昇、そしてCalcium futile cyclingとして知られるカルシウムの筋小胞体への移動が誘導され、その結果カロリー制限により抑制されるエネルギー消費が維持できることを示している。

まとめてしまうと、GDF15はまず食欲抑制を通してカロリー制限を可能にし、その結果脂肪代謝が高まり、インシュリン感受性も改善する。加えて、通常カロリー制限ではエネルギー消費も低下してしまうが、自律神経刺激を介して筋肉での酸素消費量を高め、筋小胞体へのカルシウム移動を誘導、ATPを消費して体重低下や代謝改善を助けるというシナリオになる。

後は人間でも同じような結果を予想できるか、さらに副作用がないかだが、臨床データベースを探して、GDF15血中レベルと筋肉での代謝上昇の遺伝子発現が相関すること、さらに非アルコール性脂肪肝とGDF15血中濃度は逆の相関を示し、GDF15が脂肪肝の原因になる可能性は少ないことを確かめ、臨床応用への可能性を示して終わっている。

しかし、食欲がつよく抑えられるとすると、食べて痩せるというのとは違ってしまうので実際健康な人に普及するかは疑問だ。

カテゴリ:論文ウォッチ