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1月10日 脳内リンパ流はノルエピネフリンによる動脈収縮をポンプに使っている(1月8日 Cell オンライン掲載論文)

2025年1月10日
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リンパ管はないとされてきた脳内にも老廃物を洗い流すための現在では Glymphatics と呼ばれるシステムが存在することは、このブログを始めたばかりの2013年10月に初めて知った(https://aasj.jp/news/watch/608)。その後 Glymphatics についての研究は着実に進展しており、特に眠りと Glymphatics の活動との関わりについて研究が進んでいる。

今日紹介するデンマーク・コペンハーゲン大学からの論文は、Glymphatics の流れを調節する因子として青班核から周期的に分泌されるノルエピネフリンが重要な役割を演じていることを示した面白い研究で、1月8日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Norepinephrine-mediated slow vasomotion drives glymphatic clearance during sleep(ノルエピネフリンに媒介されるゆっくりとして血管運動が睡眠中の Glymphatic の脳外排出を促す)」だ。

この研究では自由に動き回れるマウス脳にノルエピネフリンセンサー、血管でのアルブミンのセンサー、脳波計,そして筋電計を設置して睡眠中の変化を調べ、ノルエピネフリンの分泌量と血管径が逆比例することを確認している。すなわち、ノルエピネフリンにより血管が収縮して血流量が減るというサーキットができている。さらに光遺伝学的に青班核を刺激する実験で、青班核がノルエピネフリンのソースで、この結果血管の収縮が起こることを確認している。

この実験に、脳室内注入した蛍光ラベルデキストランで脳脊髄液 CSF の流れを調べる検査を重ね合わせると、CSF は見事に血管の収縮と逆の相関を示し、ノルエピネフリンが分泌され血管が収縮すると CSF の流れが上昇するという関係にあることを明らかにしている。

CSF の変化が血管により誘導されていることを直接示すため、光遺伝学的に血管の収縮を誘導する実験を行い、血管の収縮によって直接 CSF の流れが上昇し、デキストランの脳からのクリアランスが上昇することを明らかにしている。

ただ CSF 流量が上がるように見えても、実際の老廃物のクリアランスを反映しているかわからない。そこで、脳室に放射線トレーサーの除去率を調べ、最終的なクリアランスと相関するのがノンレム睡眠中に短時間脳波上で覚醒する回数と強く相関していることがわかった。すなわちノンレム睡眠中にノルエピネフリンの分泌が起こるとそこで脳波が覚醒状態を示すことから、覚醒自体が問題ではなく、ノンレム睡眠という状態でノルエピネフリンが分泌されること自体が重要で、これにより血管の収縮、拡張を制御して CSF のポンプとして使っていることがわかる。

最後に、GABA 作動性受容体を活性化する睡眠剤の影響を調べると、睡眠誘導という点では極めて効果が高いにもかかわらずノルエピネフリンの分泌が全く消失し、その結果 Glymphatic の機能が発揮できないことも示している。

以上が結果で、睡眠中も青班核が周期的にノルエピネフリンを分泌することで Glymphatic の機能を維持していることを示し、臨床的にも重要な研究だと思う。特に、睡眠導入剤については、Glymphatic への影響のない薬剤のリストがほしい。この機能が低下している高齢者やアルツハイマー病患者さんでは配慮が必要な気がする。

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