食物アレルギーは場合によっては命に関わるが、経口摂取した食物アレルゲンにより腸内で2型アレルギーが誘導される結果で、もちろん粘液分泌など腸上皮の関与もあるが、基本的には免疫システムで終始するのかと思っていた。ところが今日紹介するハーバード大学からの論文は、粘液を分泌するゴブレット細胞から2型免疫反応を増強する分子が分泌され、アレルギー反応成立に重要な役割を果たしていることを示した研究で、1月222日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「RELMβ sets the threshold for microbiome dependent oral tolerance(RELMβは細菌叢依存性に食物トレランスの閾値を決める)」だ。
この研究では2型免疫反応が遺伝的に高まっている IL-4受容体がリガンドなしに活性化されるマウスを用いている。このマウスに卵白アルブミンなど抗原を経口摂取させ、もう一度抗原でチャレンジすると、ゴブレット細胞からの RELMβ の分泌が高まることを発見している。さらに、食物アレルギーを発症している小児でも血中の RELMβ が上昇することを発見する。
そこで、RELMβ 自体の機能を調べるため遺伝子ノックアウトマウスを作成すると、食物によるチャレンジでアナフィラキシー反応が起こらないことがわかった。皮膚から免役して食物でチャレンジする実験から、RELMβ は感作過程ではなくアナフィラキシー反応に直接関わっていることがわかった。
次に RELMβ が食物アレルギーを増強するメカニズムを探ると、RELMβ が欠損すると抑制性T細胞 (Treg) の腸管での誘導が低下していることを発見する。また通常 RELMβ 欠損によって要請されるアレルギー反応も、Treg の機能を抑制したノックアウトマウスでは抑制が見られない。すなわち、RELMβ は何らかのメカニズムで Treg の誘導を抑えることで食物アレルゲンに対するトレランスを破壊していることがわかる。
ただ、これは RELMβ が直接 Treg に作用するためではない。RELMβ はレジスチンと呼ばれる分子の仲間で腸内細菌叢に働くことが知られている。また、腸内細菌叢は幼児期の食物アレルギー発生に関わることが知られている。従って、著者らは RELMβ は腸内細菌叢への変化を介して Treg 誘導に関わると考えた。
ただこの辺から話は急にややこしくなる。Treg 誘導にも関わるとされている乳酸菌を調べると、RELMβ は直接作用はないが、分泌が高まると乳酸菌が低下する。そしてこの作用は、RELMβ がゴブレット細胞の他の抗菌分子を誘導することを介して起こっていることを示している。
ここまで来るとこの研究は細菌叢研究になり、細菌叢由来で Treg への作用がある代謝物探しになる。結果、トリプトファン由来のインドール化合物が直接 Treg を誘導する作用を持っており、この作用がダイオキシン受容体として知られる AhR受容体を介した転写調節の結果であることを明らかにしている。
最初は RELMβ からはじまって、上皮由来分子が直接免疫系に作用するのかと読み始めたが、結局割と平凡なところに落ち着いた気がする。しかし、この論文の最後にマウスの実験とはいえ、幼児期、食物アレルゲンで感作する前に RELMβ に対するモノクローナル抗体で処理すると、アナフィラキシーの発生が抑えられることを示している。もちろん幼児に抗体注射という話は簡単ではないが、遺伝的にアレルギーリスクの高いことがわかっている場合は、一つのオプションになると思う。
例えばノーベル化学賞を受賞したDavid Bakerさんは、腸炎のサイトカインによる炎症を抑える、しかも経口投与可能なペプチドを開発している (https://aasj.jp/news/watch/24742 ) 。こんなペプチドができれば食物アレルギーを抑えられるかもしれない。