3月5日 孤独を嫌う神経回路(2月26日 Nature オンライン掲載論文)
AASJホームページ > 2025年 > 3月 > 5日

3月5日 孤独を嫌う神経回路(2月26日 Nature オンライン掲載論文)

2025年3月5日
SNSシェア

「ソロキャンプ」という言葉を聞いたのは最近だが、なんとなく孤独を楽しむ象徴のように感じる。多くの場合、家族も含めて人付き合いの煩わしさから逃れ、自分を取り戻したいという気持ちにさせる社会状況があるのだろう。しかし、動物の場合孤独と危険は表裏一体で、生きるためには他の個体と一緒に行動することが重要になる。とすると、孤独より群れることを好む脳回路が存在しなければならない。

今日紹介するハーバード大学からの論文は、マウスを他の個体から分離し、一定期間の後もう一度他の個体と再会したときに活動する神経回路を特定して、動物が他の個体と群れたがる本能に関わる神経回路についての研究で、2月26日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「A hypothalamic circuit underlying the dynamic control of social homeostasis(社会的恒常性のダイナミックな調節を支える視床下部脳回路)」だ。

基本的には、他の個体から分離した後の脳反応と再開した後の脳反応を調べ、両者を綱具の迂回路を明らかにするのが目的だが、詳細に至るまでよく考えられた研究だ。他の個体との関係では当然競争関係も存在するので、まずメスの個体のみで研究が行われている。さらに、孤独を感じるインプットをシンプルにするため、正常マウスに加えて、網膜色素変性症で視力が失われたマウスを用いている。

その上で、孤独を経験したあと他の個体と再会したときの行動学的に詳しい分析を行い、再会での興奮程度とその持続を計測している。面白いことに、視力がないマウス系統 (FVB) が最も再開後の興奮が高い。

この興奮度の高いFVBマウスを用いて、孤独にしたとき、そして再会したときの神経活動を視床下部で調べると、孤独に置かれたときに興奮する神経、再会したときに興奮する神経を特定できる。それぞれの神経集団は分布が異なる全く別の集団で、孤独に置かれた神経(孤独神経)の興奮は再会後にすぐにオフになる。逆に他の個体と一緒にいるとき興奮する集団(再会神経)は、孤独に置かれるとオフになる。

孤独神経は興奮性で、再会神経は抑制性神経で、互いに連結があり、また様々な脳の領域に投射している。この回路を分析して最終的に以下の結論を得ている。

まず孤独を認識する孤独神経の興奮が起こる。これは脳の様々な領域に投射するが、基本的にはネガティブな行動を誘導し食欲なども低下させる。孤独神経を光遺伝学的に興奮させると、その場所を避けることも確認している。一方、再会神経は孤独神経にも投射して、再会したシグナルで孤独神経を抑制するのに関わるが、同時に被蓋領域のドーパミン神経に投射し、いわゆるご褒美回路を活性化させる。すなわち、興奮することで満足を与える神経になる。まとめると、空腹と満足による食欲回路と同じように、孤独と再会による満足のセットが中核回路を作り、これを感情的な価値に転換するため、様々な脳領域へ投射して、ネガティブな感情を惹起し、また満足によりそれを抑えるとともに、ご褒美感情を惹起する構造になっている。そして、通常他の個体といるときには孤独神経は常に抑えられているが、孤独に置かれると興奮が始まり、ネガティブな感情が芽生える。

最後に孤独感情を認識させるインプットを探している。このために視覚が失われたFVBマウスが用いられているが、様々な事件から、視覚、嗅覚、聴覚は殆ど寄与せず、基本的に他の個体とのボディータッチによる触覚が、再開神経を抑えることで、孤独神経が興奮する構造になっている。また、触覚の質を柔らかい布と固い物質でできたトンネルを通すことで変化させて調べると、期待通り柔らかい感触が重要であることがわかる。

以上、本能としての他の個体との接触が調節され、孤独を嫌うようにできていることがわかる面白い研究だ。さて、人間が孤独を好むようになったのはなぜなのか、面白そうだ。

カテゴリ:論文ウォッチ
2025年3月
« 2月  
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31