3月15日 小児 Covid-19 関連多系統炎症性症候群の発症機序(3月12日 Nature オンライン掲載論文)
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3月15日 小児 Covid-19 関連多系統炎症性症候群の発症機序(3月12日 Nature オンライン掲載論文)

2025年3月15日
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Covid-19パンデミックが始まった当初、子供がかかっても軽症で終わるとされていたが、唯一例外として感染後1−2ヶ月後に極めて重症の全身の炎症が起こることが報告され、川崎病に似ているので注目を集めた。この原因を巡っては様々な研究が行われ、IL-1 などの炎症性サイトカインのストーム、特定のV遺伝子を持つ T細胞の増加、マクロファージの活性化など、様々な現象が報告されたが、一つのシナリオにはまとまっていない。

今日紹介するドイツ ベルリン シャリテ病院とドイツ リュウマチ研究所を中心とする国際チームからの論文は、小児 Covid-19 関連多系統炎症性症候群 (MIS-C) の患者さんから得られる様々なピースと試験管内実験を合わせて MIS-C の発症機序について説得力のある仮説を提案した研究で、3月12日 Nature にオンライン掲載されている。タイトルは「TGFβ links EBV to multisystem inflammatory syndrome in children(TGFβ が EBウイルスを小児の多系統炎症性症候群と結びつけた)」だ。

この研究では MIS-C の患者さんの血中サイトカインを、軽傷の Covid-19 患者さんと比較し、特に TGFβ の血中濃度が上昇していることを発見する。TGFβ は T細胞のキラー活性を低下させることが知られているので、これを MIS-C を攻める糸口として研究を進めている。

次に血液細胞の変化を見ると、ほとんどの細胞系列で TGFβ 刺激による遺伝子発現が誘導されているのがわかる。しかし、最も大きな影響が見られるのは T細胞で抗原刺激を受けたばかりの T細胞の増殖が誘導されている。しかし、試験管内での反応を調べると、T細胞のキラー活性は予想通り強く抑制されている。この変化は、TGFβ に対する抗体で元に戻る。以上から、Covid-19 感染が重症化する過程でまず TGFβ の分泌が上昇し、これが T細胞を中心に免疫系へ影響を及ぼし、特にウイルスを除去する T細胞反応が低下した状態が形成されることになる。

次はこの状態から全身の炎症が誘導されるメカニズムだが、著者らはこれまで知られている特定の V遺伝子を持った T細胞の増殖に鍵があるのではと考え、この V遺伝子により認識される抗原を探索している。もちろんただ闇雲に探索したのではなく、感染症が重症化するとき、身体の中に潜んでいたウイルスが再活性化され、これが全身性の炎症を誘導していると仮説を立て、EBウイルス、サイトメガロウイルス、はしかウイルス、アデノウイルスに対する V遺伝子を調べべ、最終的に EBウイルスに対する V遺伝子が MIS-C で上昇する V遺伝子と重なること突き止める。

とすると、感染後 TGFβ が上昇する過程で、内因性の EBウイルスが再活性化されると予想される。そこで、MIS-C の患者さんの血清、B細胞、あるいは血清などを詳しく調べ、MIS-C患者さんで、血清中抗EBウイルス抗体とともに、EBウイルスが上昇していること、また大人の重症化した Covid-19 でも同じように EBウイルスが血中に検出できることを明らかにしている。

結果は以上で、EBウイルスが活性化されることで全身の炎症が誘導されるまでの過程は、当然起こることとして処理されている。この点をそのまま認めるとすると、この研究により以下のシナリオが完成したことになる。

Covid-19 が持続すると、TGFFβ が上昇し、特に T細胞のキラー活性が抑えられる。これは Covid-19 をさらに重症化させるとともに、それまで抑えられていた内因性EBウイルスの再活性化を促し、この結果全身性の炎症へと発展し、MIS-C が発症するというシナリオだ。

実際には世界中のコホート研究をまとめて研究が行われており、元は東ベルリンにあったシャリテ病院の研究力が高まっていることを実感する。2000年を迎えようとする時期に、私もフンボルト財団の支援でドイツ リュウマチ研究所に3ヶ月逗留したことがある。実際には新しい建物の開所式をまたいで滞在したので、ちょうど関わっていた神戸理研開設に役立つ体験だった。このときの所長Andreas Radbruchも論文に名を連ねており、世界の研究所を束ねる研究を組織するところまで来たかと感慨深く読んだ。

カテゴリ:論文ウォッチ
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