我々は様々なものを食べるが、動物性であれ植物性であれ、多くのタンパク質が含まれている。もちろん自己タンパク質ではないので免疫反応の対象になるが、消化管による分解を逃れた抗原も、制御T細胞を誘導することでアレルギー反応へ移行しないようにできている。この過程については、主に遺伝子改変動物を用いた多くの研究から樹状細胞サブセットが重要な働きをしていることがわかっている。
ただ遺伝子改変動物の結果を正常マウスと比較するためには、操作していない動物での樹状細胞 (DC) のサブセットを調べる必要がある。今日紹介するロックフェラー大学からの論文は、細胞同士で相互作用が起こるとき、相互作用した細胞をビオチンでラベルできる LIPSTIC というしゃれた名前の方法を用いて DC と T細胞の相互作用を調べ、制御性T細胞の誘導に関わる DC を特定した研究で、3月14日 Science に掲載された。タイトルは「Identification of antigen-presenting cell–T cell interactions driving immune responses to food(食物に対する免疫反応に関わる抗原提示細胞とT細胞の相互作用を特定する)」だ。
LIPSTIC と呼ばれる方法は以前も紹介したが (https://aasj.jp/news/watch/25129) 、この研究では活性化された T細胞に発現してくる CD40L にビオチン添加酵素 (St) を、結合する CD40 に基質 (G5) を融合させ、CD40L と CD40 が結合したときに細胞がビオチン化されるシステムを組み上げている。
全ての CD40 が G5 を発現しているマウスに、CD40L-St を持つ卵白アルブミンに対する T細胞を移植して、卵白アルブミン (OVA) を食べさせると、卵白アルブミン由来ペプチドを提示している DC のうち OVA特異的T細胞と反応する細胞がラベルされることになる。これによって、消化管に繋がるリンパ節でクラス II MHC依存的に T細胞と相互作用している DC を特定することができ、2種類の DC、すなわち DC1、DC2 両方が OVA特異的T細胞とクラス II MHCを介して相互作用していることがわかる。
この方法の利点は、こうして特定した DC を取り出して、試験管内でその機能を調べることができる。すると、ビオチン化された DC1 だけが制御性T細胞の誘導に関わっていることが明らかになった。もちろん同じリンパ節内で DC2 はヘルパーT細胞を誘導している。従って、このバランスが食物アレルギーを抑える方向維持することでアレルギーが防がれている。
これまでの研究で特に新生児期に制御性T細胞の誘導に関わるDCがRORγ陽性のDC1であることが指摘されており、これについてビオチンラベルされたDC1で調べると、食事をとって早い時間に制御性T細胞と反応するのがRORγ陽性DCで、制御性T細胞誘導自体にはRORγDC1が必ずしも必須でないことを明らかにしている。
このDC1,DC2のバランスを調べるため、制御性T細胞の誘導がうまくいかず、食物アレルギーを誘発してしまう寄生虫感染でDC1,DC2がどう変化するかを調べている。
長い話を短くすると、寄生虫感染によってDC1プログラムや移動が変化するわけではなく、寄生虫感染後もDC1細胞はリンパ節内に存在している。しかし、寄生虫感染による自然炎症の結果、DC2の割合が上昇して食品抗原をDC2により奪われた結果、DC1の機能が相対的に低下し、トレランスが維持できないことを示している。
以上が結果だが、印象としては我々の免疫は危なっかしいバランスの上に乗っていることが実感される研究だ。今後もLIPSTICの活躍が期待される。