3月21日 気になった臨床研究(3月19日                Science Translational Medicine 他)
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3月21日 気になった臨床研究(3月19日 Science Translational Medicine 他)

2025年3月21日
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今日はこの1ヶ月で気になった臨床研究を紹介する。

まず最初はオーストラリアのセントビンセント医学研究所からの論文で、1型糖尿病患者さんのインシュリンペプチドに対するT細胞の反応を短時間でしかも簡単に測定することができることを示した研究、で3月19日 Science Translational Medicine に掲載された。

この研究で用いられたのは、BASTA と呼ばれる方法で、末梢血にヘパリンを加えて固まらなくした後、抗原ペプチドを加えて炭酸ガス培養器で24時間培養し、その後血清を回収して高感度の方法で IL-2 を検出するという極めて簡便な方法だ。

これまでだと、まず、白血球画分を調整しそれに抗原ペプチドを加えて増殖やサイトカイン産生を見る必要があり、どこでもできるというものではない。しかし、この方法だと病院に炭酸ガス培養器さえあれば、すぐに刺激して、後は血清を検査会社に送ればいい。

さらに驚くのは、従来の方法と比べて感度が良いことで、インシュリンの前駆体配列の中から高い反応を示すペプチドを特定し、これを用いて1型糖尿病の患者さんのみ反応することが示されている。同じ患者さんの血液を異なる時期に検査してもほぼ同じ結果が得られている。ただ、遺伝リスク患者さんの早期発見はまだ難しそうだ。

この簡便法はおそらく1型糖尿病に限らず、感染症やガンにも使える様に思う。細胞を精製する実験から、この検査ではCD4T細胞の反応が検出できていることを示しており、キラー細胞検出は他の方法が必要かもしれない。ただ、すでに免役されたT細胞が血液を流れているかどうかの検査としては大きな前進だと思う。

次は中国・中山大学ガンセンターを中心とする新しい ADC (抗体と薬剤を結合させた治療薬) の大規模第一相研究で、多くの創薬企業のひしめく分野にチャレンジする中国の意気込みが示される研究で、3月13日 Nature Medicine に掲載された。

YL201 という薬剤は costimulatory 分子の一つ CD276 に対する抗体にトポイソメラーゼ阻害剤を結合させた薬剤だ。おそらく抗体は独自のものだと思うが、どのトポイソメラーゼ阻害化合物かなどの詳細が示されていないが、形状は第一三共の DS7300 とほぼ同じと考えられる。

従来の治療の効果が見られなくなった小細胞ガン、鼻咽頭眼、非小細胞肺ガンについて、いくつかの用量で治療を行っている。第一相なので副作用が重要だが、貧血が中心に起こる。ガンだけでなく血液系にも一定程度の発現が見られるからだろう。

効果は上々で、特に他の抗ガン剤が効かなくなった小細胞性肺ガンの多くの患者さんが反応しているのは期待できる。ちょっと驚くのは、ガン細胞の表面 CD276 発現量とは無関係に効果がある点で、なぜこのようなことが起こるのかの検討がないと安心して使えない気がする。

ほぼ同じような治験が我が国の第一三共を始めいくつかの会社から発表されており、ADC の新しい主戦場になっているが、そこに打って出てくる中国の意気込みが感じられた論文だった。

次のロンドン大学からの論文は、教育や収入、生活程度などが把握されているコホートの中から社会的弱者と言われる人たちと老化の速度を調べた研究で、3月14日 Nature Medicine に掲載された。

研究では UK バイオバンクと、フィンランドのコホート研究の参加者が対象で、始まってから10年以上が経過しており、老化に伴う変化を調べられるようになっている。

研究では、老化と関連する83疾患を決め、その発生から老化の程度を測定するとともに、血液のタンパク質から老化の指標の発現しらべ、そこから老化程度を調べている。

結論はどの方法で調べても、社会的弱者の立場に置かれることで老化が進むという結果だ。特に免疫系、腎臓、肺で老化が顕著になっている。老化の指標を調べる研究ではすでに指摘されていたことではあるが、トランプに代表される政治が猛威を振るい始めた社会ではますますこの問題は深刻になるように思う。

カテゴリ:論文ウォッチ
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