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4月3日 がん免疫療法への新しい技術2題(3月26日 Science Translational Medicine 掲載論文他)

2025年4月3日
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ガンの免疫療法の進歩は著しく、患者の立場から考えるとどの方法を選べばいいのか迷うのではと心配になる。おそらくどこかに収束するとは思うが、患者一人一人に対応しつつ、一方でできるだけ多くの患者さんに利用できる技術が一つの方向性になると思う。

免疫療法ではこれを実現しているのが CAR-T 治療で、多くの患者さんのガンで発現している抗原に対する抗体を T細胞の抗原受容体 (TcR) とキメラにして T細胞に導入し、ガンのキラー細胞として使う方法だ。ただこの方法のネックは、正常細胞では発現していないガン特異的表面抗原が限られていることだ。

これを克服する一つの方法は、組織適合抗原 HLA と結合したペプチドという TcR 本来の抗原を標的にすることだが、なかなか成功を収めていない。そこで、TcR の代わりに同じ HLA/抗原ペプチドを認識する抗体を作成して利用できないか試みが続いている。

今日紹介するリジェネロン社からの論文は、リジェネロンで蓄積されてきた抗体作成技術の粋を利用してガンで発現する胎児抗原をはじめとする様々な分子と HLA が結合した抗原に対する抗体を作成する方法の開発と、それを用いた CAR-T 作成についての研究で、3月26日 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「CAR T cells based on fully human T cell receptor–mimetic antibodies exhibit potent antitumor activity in vivo(完全に人間の T細胞受容体を擬した抗体による抗ガン活性)」だ。

TcR が認識できる抗原に標的を拡大すると細胞内で発現する分子を標的として使える。この研究ではメラノーマ関連分子の一つ MAFGE-4 を標的として、この分子由来のペプチドが様々なガンでかなりの割合で発現していることを確認した後、最も頻度の高い HLA-A02 に MAGE4 が提示されるときのペプチドを質量分析で特定し、これを抗原として HLA/ぺプチドに対する特異的抗体を作成している。

これに用いられたのが、コロナの抗体薬開発にも用いられた免疫グロブリン遺伝子が人の遺伝子に置き換えられたヒト型免疫マウスで、さらに HLA を標的にした抗体が誘導されないように、HLA-A02 遺伝子をヒト型免疫マウスに導入し、HLA/ペプチドに特異的抗体が誘導できるように工夫している。

また、抗原として HLA とペプチドを結合させて抗原性を示す分子に、さらに HL-DR に結合するペプチドを加えて、免疫反応が起こりやすくして免疫を行っている。この結果、免疫されたマウスではほとんど特異的な反応だけが誘導され、その中から親和性の高い抗体を選んでいる。

あとは、この抗体が正常細胞には結合しないことなどを確認した後、この抗体を用いて CAR-T を作成し、マウスモデルで腫瘍を除去できるか調べている。いくつかのコンストラクトの中から CD28 をキメラ分子に組み込んだ CAR-T が最も強い反応を示し、ガンをほぼ完全に除去できることを確認している。さらにこのような HLA/ペプチド特異的な抗体を、変異型 KRAS 由来ペプチドや、他のガン特異的胎児抗原でも誘導できることも示している。

この方法の将来性を示すために、抗体が HLA/ペプチドをどう認識するかの構造解析まで行う念の入れようで、期待できる。

ただこの研究で HLA と結合するペプチドは実際の細胞から質量分析で特定されている。もちろん将来はガン抗原が決まれば in silico で HLA との結合を特定していくことが重要になる。現在も様々な方法でペプチドと HLA の結合を予測する方法が開発されているが、今日紹介する中国南京工科大学からの論文は、少し工夫した言語モデルを用いてペプチドと HLA 、さらには TcR の結合を予測する方法の開発だ。タイトルは「A unified cross-attention model for predicting antigen binding specificity to both HLA and TCR molecules(統一的なクロスアテンションモデルでHLAとTcRへのペプチドの結合を予測する)」で、Nature Machine Intelligence3月号に掲載された。

タイトルにあるクロスアテンションとは入力、出力両方の系列のトークンの並びからアテンションの対象を重みづける方法で、この研究ではまず抗原ペプチド、HLA、そして TcR をそれぞれ学習させたセルフアテンション層に、例えばペプチドと HLA の共通の特徴を抜き出すクロスアテンション層を加えて、特定のペプチドに対応する HLA を特定するモデルを作成している。言ってみれば英語と日本語を対応させるクロスアテンションと言える。

その結果、ペプチドとHLA の結合を予測するという点では、これまでの方法を凌駕するモデル作成に成功している。さらに、同じ方法で特定のペプチドに対する TCR を予測する方法も検討しているが、こちらはまだまだといった感じだ。しかし、このようなマルチタスク言語モデルが将来ガンのネオ抗原を予測し、さらには TcR まで教えてくれる可能性を予感させる。

最近中国の Deep Seek ばかりが注目されるが、生命科学分野での言語モデルの利用という点でも面白い論文が多く発表されている。この論文が発表された Nature Machine Intelligence の論文の半数は生物分野と言っていいほどで、DNA など媒体の存在する生命領域は言語モデルの利用が最も進んでいる分野といっていい。この分野での人材が育成できないと、我が国の生命科学の将来はないと言っても過言ではない。

カテゴリ:論文ウォッチ
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