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4月27日 ハワイオアフ島で見つかったクモの巣を利用する毛虫(4月25日 Science 掲載論文)

2025年4月27日
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現在まさに移動中で飛行機を待っているところなので、時間のかからないということで、ハワイの希少な習性を持つ毛虫のゲノムを決定したというハワイ大学からの論文を紹介する。タイトルは「Hawaiian caterpillar patrols spiderwebs camouflaged in insect prey’s body parts(ハワイの毛虫の一種は蜘蛛の巣をパトロールして餌を探し、餌の死骸を身体に巻き付ける)」だ。

要するに極めて珍しい毛虫をふ化させたあと、許可を得てゲノム配列を決定したという話だ。「で、どんな珍しい毛虫か?」ということになるが、百聞は一見にしかずなのだが、この論文はオープンでないので写真が見られない。そこでググった結果、Scientific Americanにこの論文に掲載されている論文が全て再掲載され、アクセスできることを知った。そこでURLを掲載するのでまずご覧いただきたい(https://www.scientificamerican.com/article/carnivorous-bone-collector-caterpillars-wear-corpses-as-camouflage/)。

まず毛虫だが、最初の写真にあるように、caterpillerが自分の周りに棘のようなキチン質を巻き付けているのがわかる。この棘の由来を観察していると、蜘蛛の巣に残っている昆虫の死骸から切り出してきて、ちょうどいい長さに剪定して巻き付けていることがわかる。そのため、連続殺人犯についての推理小説のタイトル bone collector という名前がつけられている。

この死骸をどう調達しているかだが、同じウェッブサイトの2枚目の写真は、bone collector が卵を抱えたクモと、同じ蜘蛛の巣に(といっても美しいウェッブというより、シート状の蜘蛛の巣を指す)存在しているのがわかる。

そしこの bone collector が蜘蛛の巣をパトロールして残った死骸や、あるいは引っかかったばかりの昆虫を餌にしている、珍しい肉食のcaterpillerであることがわかる。しかも、同じ巣の上で、同じ種同士が殺し合うことが観察される。この結果、一つの蜘蛛の巣には1匹の bone collector だけが存在する。

この種は極めて出会うのが難しく、オアフ島の15平方Kmの限られた場所でしか見つかっておらず、これまで22年にわたり150回以上の生態調査が行われ、全体で62匹しか見つかっていない。面白いのは、この死骸を身体に巻き付ける結果、bone collector がクモに襲われた例は全く見つかっていない。

このcaterpillarの一匹を孵化させて、標本を作るときに腹部からDNAを取り出し、ゲノム解析を行っている。その結果、太平洋で孤立したハワイ諸島のヒポスモコマ属の一員で900万年前に分岐してそのまま現在まで続いていることがわかった。

以上が結果で、ともかく習性が面白い昆虫を大事に孵化させ、なんとかゲノム解析まで進んだという研究で、ゲノムの意味についてはこれからの話になるが、絶滅危惧種というより絶滅してしまったかもわからない状態の昆虫なので、おそらく研究はネアンデルタール人の研究と同じような考古学的研究になると予想できる。

カテゴリ:論文ウォッチ
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