過去記事一覧
AASJホームページ > 2025年 > 4月 > 23日

4月23日 末梢血に流れるRNAを調べる意味はあるか?(4月16日 Nature オンライン掲載論文)

2025年4月23日
SNSシェア

細胞は常に壊されており、そこから様々な分子が末梢血に供給されるため、末梢血から壊れた細胞の一種の考古学を行うことができる。これを利用したのがリキッドバイオプシーと言われる血中に流れるDNA断片からガンをはじめとする病気の診断や経過観察を行う方法だ。もちろんRNAも末梢血に流れているが、DNAよりさらに分解される可能性が高く、エクソゾームのような細胞膜に守られたRNA以外は検出できても病気の診断に利用することなど難しいと考えられてきた。

今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、意味があるかどうかは問わず、ともかく末梢血に流れるRNAの遺伝子配列から景色を見てみようとした研究で、4月16日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「An ultrasensitive method for detection of cell-free RNA(末梢血のRNAを超高感度で検出する方法)」だ。

まずともかくRNAを末梢血から精製して量や由来を調べている。だいたい血清1ccには細胞20個分のRNAが含まれており、凍結保存しても最初の1ヶ月は分解されていくがそれを超えると安定に維持されることを確認して、RNA生成のための様々なステップを至適化している。

こうして精製したRNAの遺伝子配列をそのまま調べると、圧倒的多数が血小板由来のRNAで、まずこれを除くことが必要になる。強い遠心分離、さらには配列からデータから除去する方法などを組み合わせると、他の組織からのRNAが見え始める。

ただこれだけでは血小板を始め血液細胞血管細胞からのRNAが圧倒的多数を占めるため、DNA考古学でも用いられる特定のRNAの配列をベースに純化する方法を用いることで、例えば肺や肺ガン組織などからのRNAがようやく見えるようになる。こうして見える特異的RNAをコントロールとして使うハウスキーピング遺伝子RNAと比較した指標を作り、特異的RNAを測る方法を確立している。

これが実用可能かどうかについて、肺ガンの診断を行っている。一個の細胞から2本のDNAが湧出されるDNAと異なり、RNAはより多くの分子数が湧出されるためか、ここまで徹底した方法を用いた場合はRNAを使う方が感度が高い結果だ。しかし、実際の臨床でここまで丁寧に特異的RNAを精製してくるのは簡単ではないと思うし、またDNAの場合もキャプチャー法を用いることで感度を上げられるので、この結果はそのまま鵜呑みにできない。

しかし、RNAでないとわからないこともある。例えばガンが形質転換をしたような場合で、実際に非小細胞性未分化ガンが小細胞性未分化ガンへと変化したのを捕まえることができている。同じように、抗ガン剤抵抗性は必ずしもゲノムレベルの変異だけで起こるものではなく、例えばEGFRの代わりに他のチロシンキナーゼの発現が高まるケースも捕まえることができる。

さらに、同じ変異を持っているガンでも原発はどこにあるのかも当然診断することができる。

以上が結果で、確かにRNAでないとわからないことがあるのはよくわかるし、これを可能にする努力は大きき評価できる。しかし、現在の様々な方法を組み合わせた臨床にどのぐらい大きな助けになるのかについては疑問を感じる。

ただ論文の中で一つ感心したのは、コロナワクチンを注射した人からワクチンRNA断片を1週間ぐらいは検出できるという点で、100マイクログラム皮下注だとすると、感度はたいしたものだと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ
2025年4月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930