過去記事一覧
AASJホームページ > 2025年 > 4月 > 30日

4月30日 サイトメガロウイルス感染はガン免疫を高める(4月23日 Nature Medicine オンライン掲載論文)

2025年4月30日
SNSシェア

Covidパンデミックの頃BCG摂取による免疫トレーニングにより、特異性の異なるコロナウイルスに対する反応が高まる可能性が盛んに議論された。同じようなトレーニングがガン免疫にも存在することは十分考えらるが、ヒトのガン免疫に関する報告はあまり見かけない。

ずいぶん前、2015年に双生児の免疫状態を200項目もしらみつぶしに調べて、免疫状態はトレーニングにより作られることを示したM.Davis の研究を紹介した(https://aasj.jp/news/watch/2743)が、このとき免疫状態に最も影響力が強いのがサイトメガロウイルス (CMV) の感染であることが示されていた。

今日紹介する英国オックスフォード大学を中心とするグループからの論文は、このCMV感染によりガン免疫が高まることを示した研究で、4月23日 Nature Medicine にオンライン掲載された。タイトルは「CMV serostatus is associated with improved survival and delayed toxicity onset following anti-PD-1 checkpoint blockade(CMVに対する抗体の有無はチェックポイント阻害治療の効果を高めるとともに、副作用の発生を遅らせる)」だ。

この研究では転移性のメラノーマでチェックポイント治療を受けた患者さん341人のコホート研究で、この中にはPD-1抗体単独治療と、PD-1+CTLA-2抗体併用両方を含んでいる。この患者さんをCMV抗体を持つ感染者と非感染者に送別して調べると、CMV感染者は末梢のリンパ球の数が多く、またガンの予後に関わる白血球・リンパ球の比率が低く、その結果としてCD8キラーメモリー細胞も高まっている。

この免疫状態に呼応して、PD-1単独治療の場合、CMV感染者の方が圧倒的に治療効果が高い。この原因を遺伝子発現を手がかりに探索すると、CMV感染者ではインターフェロン産生型のT細胞へと誘導するTBX21の発現が高まっている。また、CMV感染の有無を問わず、T細胞のTBX21発現の高い患者さんでは生存期間が延びている。これらの結果から、CMV感染により免疫システムがトレーニングを受ける過程でTBX21を発現するようになり、この結果キラー活性の強い、またインターフェロン分泌も行うT細胞が誘導され、ガンの増殖を抑制すると考えられる。

面白いのはPD-1+CTLA-4抗体を併用している患者さんでは、CMV感染にかかわらずTBX21を発現しており、感染の効果は見られない。

このように非特異的に免疫反応性が高まっているとすると当然副作用が問題になると思うが、不思議なことにグレード3の高い副作用の頻度が低下しており、副作用を抑えるためのステロイド投与の必要性も減じている。中でも、腸炎や肺炎の頻度は大きく低下する。ただ難しいのは、皮膚の副作用は上昇しており、今後のメカニズムの解明が必要だと思う。

最後に、CMV感染者のメラノーマの発生率を調べると、BRAF変異を持つメラノーマの発生率がCMV感染で低下していることが明らかになった。

以上、CMVは我々の身体に住み込んで免疫が低下すると重症の感染を引き起こすが、我々の免疫をトレーニングすることでガンから守っていることがわかった。2015年のMark Davisの論文を思い出しながら面白く読んだ。

カテゴリ:論文ウォッチ
2025年4月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930