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4月19日 DNMT3a 変異によるクローン性血液増殖はメトフォルミンで抑えられる(4月16日 Nature オンライン掲載論文)

2025年4月19日
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私の様な高齢者は、血液に限らず幹細胞システムでは、蓄積した変異やエピジェネティックな変化の結果ガンではないが正常細胞より増殖速度が高まったクローン性増殖が必ず存在する。この程度が高いと、自然炎症の原因になったりするので、寿命と密接に関係する。もちろん、そのようなクローンの中からガンが発生することもあり、血液型では骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病がその代表になる。4月16日にオンライン掲載された論文の中に、これに関する面白い論文が3報発表された。そこで今日から2回に分けてこれらの論文を紹介する。

最初に紹介するのはトロントのマーガレット王女ガンセンターからの論文で、DNMT3aの変異によるクローン性増殖をメトフォルミンで抑えられるという論文だ。タイトルは「Metformin reduces the competitive advantage of Dnmt3a R878H HSPCs(メトフォルミンはDNMT3aR878H変異の増殖優位性を低下させる)」だ。同じ時にケンブリッジ大学の幹細胞研究所からほぼ同じ内容の論文が報告されているが、今回はカナダの論文を選んだ。

これまでの研究でヒトではDNMT3aのR882変異(マウスではR878変異)がクローン性増殖に繋がるメカニズムを調べるため、マウスに同じ変異を導入して、まずこの変異でクローン性増殖が誘導されることを確かめたあと、増殖優位性に関わるメカニズムを探索している。

DNMT3aは新しくDNAをメチル化するときに使われるため、細胞により標的が異なると考えられる。そこで、変異を持つ血液幹細胞の転写を調べるとミトコンドリアの酸化的リン酸化に関わる遺伝子が軒並み上昇しており、これによるミトコンドリアの活性上昇がクローン性増殖の駆動力になっていることを突き止める。

これを確かめるため、変異型DNMT3aを持つ幹細胞のミトコンドリアの電子輸送系分子をノックダウンすると、増殖優位性が低下する。ならばと、ミトコンドリアの酸化的リン酸化を抑える作用があり、糖尿病の治療に広く使われるメトフォルミンを投与すると、マウス体内でのクローン性増殖力が低下して正常に戻る。

従って、DNMT3aの変異によるDNAメチル化の低下によりミトコンドリアの活性が上昇してクローン性増殖がおこっており、これを抑えると正常化するというシナリオが成立する。しかし、実際にはこれだけではなく、メトフォルミンはDNAメチル化に必要なアデノシルメチオニンなどの合成を高める作用があり、その結果呼吸系だけでなく、DNMT3aが標的とするDNAメチル化やさらにはヒストンH3K27メチル化を上昇させることで、エピジェネティックな変化も誘導できることを明らかにしている。すなわち、単純にミトコンドリア活性だけでなく、メチル化に必要な代謝物を増やすことで、DNMT3aの変異によっておこる異常を訂正していることを明らかにしている。

最後に、人間の血液幹細胞に同じ変異を導入して、メトフォルミンの効果が見られることも確認して、この話が決してマウスだけの話ではないことを示している。

ケンブリッジ大学からの論文では、メトフォルミンを服用しているUKバイオバンクの参加者ではDNMT3aのR882変異の頻度が強く抑えられていることが示されており、メトフォルミンがクローン性増殖を抑えていることは明らかなようだ。

この結果からすぐに高齢者にメトフォルミンを予防投与するという話にはならないと思うが、メチル化に必要な代謝物の葉酸を服用することなどは今後検討される気がする。さらに、骨髄異形成症候群や白血病にまで発展した場合に効果があるかどうかも調べてほしいと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ
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