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4月14日 TIM-3チェックポイント分子はミクログリアでは全く違う働き方をしている(4月9日 Nature オンライン掲載論文)

2025年4月14日
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アルツハイマー病 (AD) にβアミロイドとTauタンパク質の蓄積が病気を進行させるドライバーだが、ADの遺伝リスクをたどるとApoE以外にも TREM2などミクログリア機能に関わる遺伝子との相関が示されており、またミクログリアがアミロイド除去の主役であることから、ADでのミクログリアについての研究が加速している。ミクログリアについての面白い論文を今週2報読んだので、今日・明日と2回にわたって紹介する。

最初のハーバード大学からの論文は、元々理解が難しいチェックポイント分子TIM-3のミクログリア及び ADでの役割を調べた研究で、4月9日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Immune checkpoint TIM-3 regulates microglia and Alzheimer’s disease(免疫チェックポイント分子TIM-3はミクログリアとアルツハイマー病を調節する)」だ。筆頭著者の木村さんは現在は京大神経内科所属になっている。

この研究はTIM-3遺伝子のSNPがADリスクと相関しているという最近の研究から始まっており、脳内でのTim-3の発現から検索し、Tim-3 が発生とともにミクログリアでの発現が上昇すること、またもう一つのチェックポイント分子であるLag3も同じようにミクログリアで発現することを確認している。すなわち、T細胞免疫のチェックポイント分子はミクログリアでも発現が見られる。

この上昇はTGFβシグナルと平行しており、実際Tim-3をTGFβで誘導できることから、Tim-3に焦点を当てて研究を進めている。

PD-1などと比べるとTim-3は極めてわかりにくい分子だ。まず、ガレクチンを始め様々な分子に反応する。またシグナル経路も多様で、一般的には通常Bat3と呼ばれる分子と結合してその機能が抑えられているが、リガンドで刺激されるとBat3が離れてFynやShp1/2をリクルートする。通常このような分子がリクルートされるとT細胞刺激が高まると思うのだが、なぜかT細胞の活性化を抑えるチェックポイント機能が発揮されるとされている。実にわかりにくい。

ただこの研究では、Tim-3がミクログリアでこれまで考えられたこともないシグナル経路を使っていることが明らかにされる。すなわち、TGFβのシグナルを受ける、TGFβ受容体 (TGFBR2) とその下流のSMAD2に直接結合し、リン酸化されたSMAD2のレベルを高めることでTGFβの刺激を促進する働きをしていることを明らかにしている。また、これまで知られていた上流、下流のシグナル経路は、今回明らかになった経路とは全くことなっており、まさにミクログリア特異的シグナル経路が見つかった。

次はミクログリアでの機能だが、上流のシグナルが明らかでないのでミクログリア特異的Tim-3ノックアウトマウスを作成して調べてみると、Tim-3 がノックアウトされたミクログリアでは貪食能に関わる分子が上昇し、死んだ神経細胞を処理する力が上昇している。

この結果は Tim-3 がADでのミクログリアAβ処理にも影響がある可能性を示唆しており、ノックアウトマウスをAβが蓄積するマウスと掛け合わせて調べると、ADの進行が見事に抑えられる。逆に言うと、Tim-3はADでAβ処理のブレーキ役になっていることになる。

詳細は省くが、Aβが蓄積するADマウスで、Tim-3ノックアウトミクログリアを詳しく調べることで、Tim-3欠損により貪食能が上昇する一方、炎症誘導活性が低下するという理想的な状態になっていることが明らかにされた。

以上が結果で、TGFβがミクログリアの活性を抑える働きがあるというこれまでの結果から考えると、 Tim-3 はこの活性をさらに高めてブレーキをかけていることを示している。この結果を臨床応用するには、ミクログリアでのTim-3活性化シグナルをさらに検索する必要があるように思うが、例えばTim-3細胞外ドメインと Fc を結合させた阻害剤などがうまく効いてくれると臨床応用が可能になる。期待したい。

カテゴリ:論文ウォッチ
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