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4月29日 アミロイドβ蓄積を神経細胞死へと誘導する分子PHGDH(4月23日 Cell オンライン掲載論文)

2025年4月29日
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現在アルツハイマー病 (AD) の発生プロセスに関しては、アミロイドβ (Aβ) の蓄積が最終的にはTauのリン酸化、細胞内蓄積、そして細胞間伝搬を伴うTaunopathyを誘導しないと神経細胞変性は起こらないと考えられている。しかしマウスにADを発症させるモデルのなかには、3種類のヒトの遺伝的Aβ変異を2種類のAβを切り出す酵素プレセニリンの変異と組み合わせた5xFADマウスのようにTaunopathyをそれほど起こすことなくシナプス喪失が起こることがある。おそらくTaunopathyも誘導されると思うが、Aβ蓄積だけでも炎症を誘導してシナプスの変化が起こる可能性を示しておりAD病理の複雑さを示している。

今日紹介するカリフォルニア大学サンディエゴ校からの論文はAβとシナプス喪失を直接繋いでいるメカニズムの一つにPHGDH分子が存在することを示した研究で、4月23日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Transcriptional regulation by PHGDH drives amyloid pathology in Alzheimer’s disease(PHGDHによる転写調節がADに起因するアミロイドプラーク病変を誘導している)」だ。

この研究で着目したのは最近示されたADの海馬や前頭葉ではグルコース代謝でフォスフォグリセリン酸をフォスフォヒドロキシピルビン酸に変換する酵素PHGDHで、この作用はセリン合成に必須であることから、セリン供給が増えてグルタミン酸受容体の過剰活性がADを誘導すると考えられていた。

この研究ではAβとTauの変異を誘導した3xTgマウス脳局所にPHGDHを過剰発現させるとAβプラーク形成とシナプス喪失を高められることから、PHGDHがADの病理に直接関わることを確認したあと、ヒトES細胞から誘導した脳オルガノイドにヒト血清を加えてAD様の病変を発生させる大変なモデル系を用いて、AD誘導とともにPHGDHが上昇すること、そしてこのときPHGDH発現をノックダウンで抑制するとAD病理の発生を抑えられることを明らかにしている。

このようにPHGDHはADのマーカーだけでなく、AD 発症に直接影響する分子であることが明らかになった。そこで、このメカニズムを探索する目的で、まずセリン合成に関わる酵素活性部位を欠損させたPHGDHをオルガノイドに導入する実験を行ている。結果は驚くべきもので、酵素活性がノックアウトされたPHGSDHでもAD病理と促進することができる。すなわち、この分子はセリン供給とは別の経路を介してAD病理を誘導していることになる。

そこでPHGDHの様々な部位を変異させ、AD病理誘導能力を調べると、核移行シグナルとbHLH構造が必須であること、即ち一種の転写因子として働いてAD病理誘導に手を貸していることが明らかになった。

そこで、PHGDHにより変化する遺伝子発現の中から、AD病理発生に最も関わる遺伝子を探索し、PHGDHが発現することで起こる変化の中で、IKKとHMGB1が最も重要であることを突き止める。即ち、PHGDH発現上昇とともにこれらの分子の発現が上昇し、またそれぞれをオルガノイドでノックダウンすると、オルガノイドでのAD病理の発症を抑えることができる。

IKKはNFκBを介して炎症を誘導し、またHMGB1はTLRなどの発現を調節して炎症誘導に関わることがわかっている。また、PHGDH効果によるAD病理ではTaunopathyの関与は少ない。即ち、PHGDHはAβ蓄積と炎症を直接つなぐ分子であることを示している。

幸いこれまで開発されたPHGDH阻害剤の中には分子の立体構造を変化させる阻害剤があり、これを用いるとIKKやHMGB1の遺伝子誘導に関わる転写調節因子としての作用も抑制できることがわかった。この化合物を脳オルガノイドのAD病理誘導系に加えると、Aβ蓄積、シナプス喪失を防ぐことができる。最後に、Taunopathyの影響の少ない5xFADマウスに投与すると、認知機能の改善が見られた。

以上が結果で、Taunopathyだけでなく、場合によっては炎症誘導だけでAD病理が起こることを示した面白い研究だと思う。

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