古代ゲノム研究が進んで、アフリカ人はサハラ以北とサハラ以南の民族に分けて考えるようになっている。特にネアンデルタール人との交雑の有無で見るとサハラ以南の民族には全く交雑の跡がないが、サハラ以北では出アフリカ後も交流があり、またゲノムレベルでも出アフリカ時代に民族は別れたのではないかと考えられている。広大なサハラ砂漠を中心とした乾いた大地を考えると、これが大きな障害になったと考えてしまうが、実際にサハラ砂漠領域が乾燥し始めたのは、1万年から5000年にかけてのことで、それ以前は緑の大地が広がっていたと考えられる。従って、サハラ砂漠による分断前の歴史を探ることはアフリカ民族の形成を理解するには重要な課題になっている。
今日紹介するライプチヒのマックスプランク進化人類学研究所からの論文は、緑豊かなサハラ時代の人類のゲノムを調べ、この時代にもサハラ領域では大きな民族の移動はなく、それぞれの民族が形成されていたことを示した研究で、4月2日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Ancient DNA from the Green Sahara reveals ancestral North African lineage(緑のサハラ時代の古代DNAは北アフリカ系統の存在を示している)」だ。
我が国のゲノムの歴史がまだまだ解明されていないのに、アフリカなどどうでもいい思われる方も多いと思う。実際、我が国の古代ゲノム研究 DNA のクリーンラボが導入されたのは2020年に入ってからで、天皇との関係で古墳研究も簡単でなく、研究者は多くのハードルを越える必要がある。そして何よりも高温多湿の日本ではゲノムの保存状態が悪いという問題があった。
この論文を紹介することにした理由は、もちろん北アフリカ古代史も面白いのだが、様々な技術のおかげで保存状態の良くない骨からもゲノム解析が可能になっていることを強調するためだ。実際、サハラ砂漠で石器時代の文化遺跡は発見されるが、DNAを回収することはほとんど諦められていた。
この研究ではリビア南、サハラ北の Takarkori の洞窟で見つかった歯と骨からゲノムを回収しているが、本来のゲノムの存在率は0.1%−1%で、現在のところ通常のショットガンシークエンスは難しい。代わりに、ヒト DNA を精製したあと、古代 DNA の多型パネルを使って解析している。すなわち、極めて少量の DNA を調べるプラットフォームが着々とできていることがわかる。おそらく我が国の古代ゲノムもこれにより進むのではと期待できる。
さて、今回発見されたゲノムは一体は80万SNP、もう一体は2万SNPが解析可能だった。この結果、Takarkori 人は他の北アフリカ人と比べてもかなり独自のゲノム構成を持っていることがわかった。文化的には、北アフリカに広がる陶器や埋葬などの文化を持っていることから、北アフリカでは、あまり民族間の交雑は起こらず、しかし文化だけが徐々に広まったと考えられる。
詳細は省くが、これまで出土している北アフリカ古代ゲノムを中心に比較することで、ルーツを探った結果、
- Takarkori 人はホモサピエンスの出アフリカ時に、サハラ以南のホモサピエンスと別れた系統に属している。
- モロッコで発見された Taforalt 人に最も近く、おそらく北アフリカ人形成に関わった共通祖先を持っている。
- これまで、ヨーロッパとの交流の可能性から明確に結論できなかった北アフリカ系統が明確に存在することがわかった。
- ネアンデルタール人遺伝子が低レベルで見られ、この割合からも出アフリカ以降のホモサピエンスが北アフリカに移動した系統関係を支持する。
今後は、モロッコの Taforalt 人と Takakori 人の分岐点に近い古代ゲノムの探索が必要になるが、マックスプランク研究所はかなり精力的にこの地域へと研究を拡大している。なんとなく、帝国主義とともに、世界中の考古学が進み、日本も負けずと聖域探検を送ったのと似ているが、我が国の場合はまず我が国の古代史から進めていってほしい。