10月14日:自閉症の全ゲノム解析からわかること(10月19日号Cell掲載論文)
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10月14日:自閉症の全ゲノム解析からわかること(10月19日号Cell掲載論文)

2017年10月14日
双生児の詳しい研究からわかるように(http://aasj.jp/news/watch/1517)、自閉症は遺伝的要素が高く、また大規模ゲノム解析の結果、100近くの自閉症の発症と相関のある遺伝子がリストされている。確かに一部の症例では、明確な突然変異を原因として特定し、同じ遺伝子の突然変異を持った動物モデルまで作ることができている。しかし同時に、親から遺伝するのではなく、新しい突然変異が自閉症の患者さんで積み重なることが病気の発症に関わっていること(http://aasj.jp/news/watch/2374)や、もちろん胎児期にさらされる様々な要因も発症に関わっていることがわかってきた。ともすると、遺伝性ばかりが強調されるが、実際には多くの遺伝子機能の小さな変化が重なって起こること、変異のほとんどは片方の染色体に限局しているため、遺伝子発現の量の病気であること、そして胎児期のストレスを軽減すること、そして成長期の脳の発達を助けるなど、様々な治療可能性がある。ただ、そのためには多様な患者さん一人一人について詳しい科学的研究を進めることが重要になる。

今日紹介する米国ワシントン大学からの論文は、自閉症コホート研究に登録されている親兄弟の全ゲノム解読を行い新たに起こる突然変異について解析した研究で10月19日号発行予定のCellに掲載されている。タイトルは「Genomic patterns of de novo mutation in simplex autism(孤発性の自閉症に見られる新しい突然変異)」だ。

米国では自閉症児が一人だけ生まれたが親や他の子供は正常と診断されている2600家族が登録され、追跡されている。この中から、まず家族性はないと言える孤発性の組み合わせを516家族集め、すべてのメンバーの全ゲノムを解読して、自閉症の子供に新たに起こりやすい変異を特定しようとしている。しかし、口で言うのは簡単だが、高速コンピューターが使えても、途方もない仕事だ。従って、随所にポジティブな結果を出そうとする努力が行われている。実際、自閉症の子供だけに見られる突然変異が簡単に見つかるわけではないようで、著者らも500程度でなく、もっと大きな数の研究が必要だとしている。

もちろんすでに同じような研究が行われており、それを合わせて精度を上げることの重要性も指摘されている。しかし、ビッグデータの論文になると、どうしても興味を持ったポイント以外は無視されたまま報告されることが多いことも指摘している。このような重要データはできるだけ早く公開するため、Cold Spring Harbor研究所がbioRxivというサイトを運営し(https://www.biorxiv.org/)、論文発表までデータを公開することができるが、著者らは、ここに登録した最初のドラフトと、発表された論文の解釈が違っていることも、データを統合していくためのハードルになっていることを指摘している。おそらく、査読の過程で、記述を変えさせられたのも多いのかもしれない。著者の本音を知るためには、bioRxivを調べるのも重要だ。

少し脱線したが、この難しさを理解した上で、この研究から明らかになったことをまとめると次のようになるだろう。

1) タンパク質に翻訳されるエクソームだけの解析でなく、全ゲノム解析を行うことで、重要な変異の見落としがなくなる。最近、特定の遺伝子や領域に絞り込んで遺伝子診断を行うための開発が進んでいるが、思わぬ落とし穴があるかもしれない。
2) 自閉症児にはアミノ酸配列の変異を起こす、ミスセンス変異が2倍高い。
3) 転写やRNAプロセッシングに必要なゲノム部位に絞って比べると、自閉症児のみで増加が見られる。
4) 自閉症児では、脳の線条体で発現しており、これまで自閉症との関わりが示された遺伝子を中心に、2個以上の変異が見られ、幾つかの遺伝子変異が重なった時に自閉症が発症する可能性が示唆された。

華々しい成果というわけにはいかないが、大変な努力をして、精度の高い自閉症ゲノムについての研究が進んでいるのを実感できる重要な貢献だと思う。なぜ特定の遺伝子変異が重なるのかなど、まだまだ知りたいことは多い。しかし何よりも、コホート研究として3000近い家族が追跡されていることを知ると、国を挙げての努力が続いているのがわかる。
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10月13日:手術の腕に男女の差はない(10月10日号British Journal of Medicine掲載論文)

2017年10月13日
熊本大学、京都大学の医学部で20年近く教授を務めたが、教授会に女性の外科教授はいなかった。少し古いデータだが、昭和24年の統計では、女性の比率は全医師で19%になっているのに、一般外科医で7.1%、脳外科医で4.9%、整形外科医で4.4%に止まっている。要するに、様々な理由で労働条件が悪い外科が女性から敬遠されている。しかしこれはわが国だけの問題ではないようで、女性医師の比率が高い米国やカナダでも、同じように女性の外科医は少ない。問題はこの状態が続くと、女性の外科医は男性より腕が落ちるという先入観が根付いてしまうことだ。調べたことはないが、おそらくこの先入観を持っている一般の人は多いのではないだろうか。さらに、男性医師の間にも同じような先入観はあるのではないだろうか。とするとまずこの先入観が正しいのかはっきりさせることが重要だ。

ちなみに、では私はどうかと考えてみると、女性外科医すら想像できない世代に属しており、上手い下手などの判断ができない。

今日紹介するトロント大学からの論文は25種類の一般的外科手術の成績を男性と女性の医師で比べた調査で10月10日号のBritish Medical Journalに掲載された。タイトルは「Comparison of postoperative outcomes among patients treated by male and female surgeons: a population based matched cohort study(男性と女性の外科医に手術を受けた患者さんの術後の経過の比較:住民に基づいた症例対照研究)」だ。筆頭著者は、外科のレジデントで、大学で教えていた私としては、重要な問題に気づき、忙しい仕事の中でよくまとめ上げたと褒めたいと思い取り上げた。

調査は、2007年から2015年までオンタリオ州で行われ、公的、私的な保険請求により、誰が執刀医であるかが追跡できる手術の中から、ほとんどの外科領域カバーする25種類の手術を選び、手術後30日までに、死亡、合併症、再入院などの問題の発生の有無で手術の成否を判断している。

選ばれた手術は虫垂炎のような簡単なものから、脳腫瘍手術、股関節置換術まで広い範囲にわたっており、男女の成績を正しく判断できるよう設計されている。この結果、それぞれの手術ごとに、男女の成績が正確に出るよう補正を行っている。カナダの場合、約2割の手術が女性により行われているが、脳外科、心血管外科手術や泌尿器外科手術などは女性の割合が極端に低い手術は多く、男女が同じように働いているとは言い難い。従って、データ解析も手術の種類などが反映されないように補正が必要になる。

さて結果だが、補正前、補正後を問わず、優位な男女差はほぼない。各分野で見ても、耳鼻咽喉科を除くと、女性の方が若干成績が良いようだ。特に、形成外科では圧倒的に女性が優れている。従って、女性は外科に不向きというのは間違った先入観であることが示された。

今年の2月、JAMA Internal Medicineに高齢者の医療処置後の合併症は、女性医師にかかった方が少ないという論文が発表され話題になった(JAMA Internal Medicine, 177:206, 2017)。ただ、内科の治療は主治医が決まっていても、チーム医療の程度が強い。これに対して、外科の場合執刀者ははっきり決まっているので、今回の結果はより能力の男女差を反映していると言えるだろう。

もちろん、同じ手術でも難易度は違う。男性優位の歴史が長いと、難しい手術は経験の豊富な医師が出てくることになり、結果を左右するだろう。さらに詳しい症例の検討は必要だと思うが、ともかくこのようなエビデンスが出ることが、女性外科医を増やす第一歩になる。今後もこのような調査を繰り返し、エビデンスでこのような先入観を取り除くしか、女性に外科の方を向いてもらうことはできない。男性医師も、今のままでいいと居直らないで、出産、育児の可能な労働環境整備をともに要求し、多くの女性外科医を受け入れる努力が必要だろう。医療現場で男女差があるようだと、女性の輝く社会など絵空事で終わる。
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10月12日:心筋再生の細胞内メカニズム(10月12日号Nature掲載論文)

2017年10月12日
今年6月、心筋梗塞の全く新しい治療開発につながる可能性を秘めたNature論文を紹介した。この研究では、心臓の再生を促進する細胞外マトリックスAgrin1の発見で、心筋梗塞を起こした後Agrinを梗塞部位に注射すると、驚異の回復を示すという結果だ(http://aasj.jp/news/watch/6955)。一方、同じNatureに細胞外マトリックスと相互作用を行っているHippoシグナルが心筋の再生を抑制するという論文も発表されていたが、やはりAgrin1を注射する実験のインパクトと比べると見劣りしていた。

今日紹介する論文は、6月にHippoシグナルによる心筋再生抑制について論文を発表していたグループが、心臓再生を抑えるHippoシグナルの下流の一つParkin2の機能について明らかにした研究で、前回の続きと言っていい。タイトルは「Hippo pathway deficiency reverses systolic heart failure after infarction(Hippoシグナル経路は、梗塞後の心不全を元に戻す)」で、本日発行のNatureに掲載されている。

この研究でも、心筋の再生抑制を外すため、Hippoの下流のsalv遺伝子を任意の時期に心筋特異的にノックアウトできるマウスを作り、心筋梗塞を起こしてから3週間目にSalvをノックアウトすると、さまざまな生理学的、組織学的指標での回復がなんと90%近いマウスで見られ、その中の10%のマウスでは、瘢痕が全くない完全な回復が見られることを示している。これらの実験から、梗塞部位の境界に存在する心筋細胞は、Hippoシグナルを抑制すれば、増殖し、心筋再生が起こることは、少なくともマウスでは確実といえるだろう。

この時増殖を始めた心筋細胞を取り出して遺伝子発現、特に新たに転写が始まった遺伝子を調べると当然のことながら増殖に関わる遺伝子や、心筋の機能に関わる遺伝子が上昇し、転写や代謝に関わる遺伝子の発現が低下している。ただこの結果だけでは、再生していることを反映しているだけで、特に新しいことは言えない。

そこで、Hippoの下流で抑制され、Salvノックアウトで上昇している、傷ついたミトコンドリアを処理するときに働き、変性疾患で特に注目される分子Park2に集中して、この分子の発現上昇が必要かどうか調べ、再生が起こるSalvノックアウト心筋では再生力が落ちることを観察している。面白いのは、Parkin2が欠損する心臓では、瘢痕化が抑えられる。一方、Salvは正常でParkin2欠損マウスでは、瘢痕化を防げない。従って、今後Agrinでも他の方法でも、心筋梗塞の治療が行われるようになった時、この事実は重要な課題になるかもしれない。

話はこれだけで、前の論文と比べると、3週間後にHippo経路を阻害することでかなりの回復が得られるという結果と、Parkin2の瘢痕化の話の合わせ技で採択された印象が強い。またAgrinについては一言の言及もないのが気になる。とは言えもし、AgrinがHippo経路と繋がるなら、心筋梗塞の治療可能性をさらに確実にし、治療標的分子の可能性を広げることになる。期待したい。
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10月11日:ネアンデルタール人に赤毛はいない(10月5日号The American Journal of Human Genetics掲載論文)

2017年10月11日
ついこの前まで、ネアンデルタール人というと大柄で、色黒で、黒い髪の毛を持ったいかつい人間として描かれていた。また、同じイメージは多くの博物館で展示されていた。しかし、ペーボさんたちのゲノム解析はこのイメージを一変させ、今では色白で金髪、青い目の人類として描かれるようになっている。しかし多くのネアンデルタール人のゲノムが解読された現在でも、ネアンデルタール人が実際どのような特徴を持っていたのかを明確に述べることは難しい。これは、現在もなおゲノムから体の形や機能を再構成することが難しいことと、ネアンデルタール人も多様化しているからだ。従って特定の遺伝子の機能を知りたい時は、その遺伝子を持った生きた人間を調べるしか方法はない。

幸い、ネアンデルタール人の遺伝子の働きを生きた人間で調べる方法が存在する。それは、背の高さや、肌の色など一般的な人間の特徴と遺伝子を相関させる目的でこれまでデータが蓄積されてきたゲノムコホート研究データを、これまで一般的性質と相関がわかっている多型の中に、ネアンデルタールゲノム由来のものがないかという視点で見直し、私たちの持っているネアンデルタール人ゲノムの断片の表現を調べる手法だ。今日紹介するライプチッヒ進化人類学研究所からの論文は、この可能性を追求した研究で10月5日号のThe American Journal of Human Geneticsに掲載された。タイトルは「The contribution of Neanderthals to phenotypic variation in modern human(ネアンデルタール人の現代人への形質の多様性に対する貢献)」だ。

現在英国では、50万人規模で、病気などとともに、背の高さや体重、肌の色などの一般的身体形質、食習慣、行動、教育などの形質と相関するゲノム多型を調べるUK Biobankプロジェクトが進んでいる。このデータで、各形質と相関することがわかっている多型の中からネアンデルタールゲノム由来の多型を特定し、それが現人類の身体のどの特徴に対応するかを調べている。いわば、ネアンデルタール人のゲノム断片の作用を、現代人の体を借りて調べると言える研究だ。

ヨーロッパ人ゲノムの1.5-2%がネアンデルタール由来であることがわかっているが、136種類の形質と相関がわかっている多型のうち、6230がネアンデルタール人由来、439749が現代人類由来で、比率は大体同じだ。

方法の詳細は省くが、このうちネアンデルタール人由来のゲノムが表現されているとまちがいなく言える性質に、身長、座高、体脂肪率、安静時脈拍数などがある。面白いのは、ネアンデルタール遺伝子が関係している性質の多くが、皮膚や毛髪の色に関わる点だ。と言っても、ブロンド=ネアンデルタール遺伝子ではなく、ネアンデルタール人にも多くの多型があり、金髪から黒髪まで現代人の様々な多型にネアンデルタール人遺伝子が関わっている。ただ今回の研究から、現代の英国人に多い赤毛に関わる多型は、ネアンデルタール人のゲノムを探してもほとんど存在しないことから、ネアンデルタール人に赤毛は極端に珍しいことが結論できる。これ以外に、日焼けをほとんどしないという性質もネアンデルタール人遺伝子が強く関わることがわかった。

リストを全部説明するときりがないので、あとは省略するが、一つだけ面白い性質として、夜型の人に多い遺伝子多型がネアンデルタール人由来である点だ。しかも、この多型は緯度の高い地域ほど多くなる。すなわち、冬の夜が長い地域ほど、ネアンデルタール人の夜型多型が多いという話だ。ネアンデルタール人が暮らしていた地域から考えると納得の結果だ。

これまで、主に病気とネアンデルタール人由来の遺伝子との相関が調べられてきたが、この論文は身長や肌の色など、一般的な性質の違いに注目して、ネアンデルタール人とはどんな人だったかを明らかにしようとしている。結局現人類と同じで、ネアンデルタール人も色々ということが重要な結論になるが、とすると今後博物館で展示されるネアンデルタール人モデルがどう変わるのか、興味が有る。間違っているかもしれないが、アフリカから移動した現人類がネアンデルタールと出会って、様々な遺伝子が流入したとして、それ自身も小さな変異を起こしてきたとも考えられる。例え黒髪の人の毛色を決める遺伝子の一つがネアンデルタール由来だとしても、さらなる多型が起こった可能性は十分ある。ネアンデルタール人ゲノムが、現人類の中でどう変わったのも今後の面白い課題だと思う。
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10月10日:糖尿病をエクソゾームで治す?(10月5日号Cell掲載論文)

2017年10月10日
他人のことを言える筋合いではないが、世界中で肥満が増加し、その結果2型糖尿病も増えている。この原因は、肥満により脂肪組織、肝臓、骨格筋の炎症状態がインシュリン抵抗性を誘導するからだと考えられ、様々な炎症誘導性エフェクターが特定されてきた。このインシュリン抵抗性を誘導する因子の中の変わり種として、マクロファージからエクソゾームの形で分泌されるマイクロRNAがある。私自身は、これまで理由なくマイクロRNAを認めるに抵抗感を持ってきたが、今日紹介するカリフォルニア大学サンディエゴ校からの論文で、マウスとはいえ痩せたマウスからのmiRNAでインシュリン抵抗性を改善できるのを見ると、正直期待が湧いてきた。論文のタイトルは「Adipose tissue macrophage-derived exosomal miRNAs can modulate in vivo and in vitro insulin sensitivity(脂肪組織マクロファージ由来のエクソゾームに含まれるmiRNAは生体内、生体外でインシュリン感受性を変化させる)」だ。

この研究では脂肪組織マクロファージ (ATM)を分離し、蛍光ラベルしたmiRNAを取り込ませた後、試験管内で蛍光ラベルmiRNAを含むエクソゾームが分泌されるか調べ、期待通り30-100nmの大きさのエクソゾームが分泌され、共培養した脂肪細胞に取り込まれることを確認している。

次に肥満マウスのATM由来エクソゾームを分離、それを正常マウスの静脈内に注射すると、耐糖能が低下、インシュリン抵抗性が誘導される。すなわち、インシュリンが効きにくくなっているが、これは肝臓や筋肉でインシュリンによって誘導されるリン酸化AKTの低下、PPARγの低下、そしてブドウ糖のトランスポーター GLUT4低下によると確認される。

このインシュリン抵抗性は、試験管内でも誘導することができる。この系を使って、miRNA合成を止めたATMのエクソゾームの活性を調べると、エクソゾームによるインシュリン抵抗性が消えるので、エクソゾーム中のmiRNAが活性の主役であることを確認している。

この話なら、まあこんなこともあるかと思って終わるのだが、この研究では次に痩せたマウスのATMからエクソゾームを調整し、今度は肥満マウスに注射して、なんと肥満によるインシュリン抵抗性が正常化することを示している。この発見がハイライトと言っていい。

以上の結果は、肥満マウスのATMと痩せマウスのATMは全く反対の作用を持ち、これが含まれるmiRNAの差によることを示している。そこで、肥満によりATMが発現するmiRNAがどう変化するかを調べると、肥満で上昇するmiRNAと痩せで上昇するmiRNAが見事に分かれ、肥満で上昇するmiRNAにはこれまで肥満との関係が示されていたmR155が含まれて、肥満マウスATMエクソゾームに多く含まれること、mR155によりインシュリン抵抗性が誘導されること、さらに痩せマウスのエクソゾーム注射でmR155が低下することを明らかにしている。

様々なmiRNAが変化しているのに、結局これまでわかっていたmR155の話に収束して、mR155がインシュリン抵抗性を誘導する張本人であると結論して終わっているのは残念だ。私を始め多くの人が興味を持つ、どうして痩せのmiRNAが肥満ATMのmR155を抑えインシュリン抵抗性を付与できるのは結局何も答えられていない。また、人間の肥満ATMでも同じことがいえるのかも知りたい。

腸内細菌を移植しても、エクソゾーム注射でもインシュリン抵抗性が改善するという話は、何か特殊な面からだけ人間の状態を判断している危惧を感じてしまう。まだまだ、論文のための論文で終わる心配は払拭できていない。
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10月9日:RNAのメチル化を神経幹細胞で止めてみたら?(11月2日号Cell掲載予定論文)

2017年10月9日
mRNAのメチル化は古くから知られた現象だが、この過程に関わるメチル化酵素、脱メチル化酵素が明らかになり、それぞれの酵素の遺伝子操作により、mRNAメチル化の生物学的意義が急速に調べられるようになった。ただ、メチル化自体は、多くのRNAで起こり、一つの分子が欠失するような単純な異常ではないため、メチル化の障害による形質を完全に解析することは本当は困難なことが多い。

今日紹介するペンシルバニア大学からの論文は、発生時期の脳幹細胞でRNAメチル化酵素Mettl14をノックアウトしたら何が起こるかとりあえず調べてみたという研究で11月2日発行予定のCellに掲載された。タイトルは「Temporal control of mammalian cortical neurogenesis by m6A methylation(m6Aメチル化は哺乳動物の皮質神経形成の時間経過をコントロールする)」だ。

著者らが、最初からradial glia cell(RGC)として知られる幹細胞から皮質神経の時間コントロールを研究したかったのかどうかはよくわからないが、私たちの脳皮質の美しい層構造は、時間に合わせて順次細胞の増殖と移動を調節する事はよく知られている。従って、自分が興味を持つ分子が脳幹細胞にさえ発現しておれば、当然この系で影響を見たいと思う。実際、メチル化に関わる酵素Mettl14などの脳幹細胞での発現は高い。そこで、脳幹細胞だけでMettl14をノックアウトすると、マウスは生後25日前後で死亡することから、皮質の発生に何らかの役割を演じていることが確認された。

脳を調べてみると、幹細胞が存在する脳室周辺が拡大し、一方皮質表層部の分化細胞の形成が低下していること、そしてこれが幹細胞での細胞周期の遅れによることを発見している。はっきりしているのはここまでで、なぜ細胞周期が遅れるのかについては、メチル化ができなくなり、発生過程で決められた特定のRNAの寿命が長引いて、その結果細胞周期が遷延し、分化に必要な新しい転写が抑えられてしまうと結論している。すなわち、メチル化は発生過程で決まるmRNAに特異的で、これにより素早いRNA除去を行うことで、次の転写を促すという話になる。しかし、示されたデータから見ると、少し強引すぎる結論に思える。

おそらくこの話だけでは、論文は掲載されなかったのだろう。最後に、人間の脳皮質発生でメチル化されるRNAを調べ、同じように細胞周期や、幹細胞活性に関わるRNAが特異的にメチル化されていることを示すとともに、その中に統合失調症や自閉症スペクトラムの遺伝子が含まれていることを示している。

合わせ技一本で論文を通した感じだが、一つの遺伝子の異常で理解することが難しい統合失調症などが浮かび上がってきたことは、将来につながる結果かもしれない。
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10月8日:旧人類・現人類相関図(10月5日Scienceオンライン版掲載論文)

2017年10月8日
ゲノム解読から有史以前の歴史を解明する研究が着々と進んでおり、2−10万年前に地球で暮らしていた我々の先祖である現人類(modern human, present day human)と旧人類(ネアンデルタール人や、デニソーワ人)で、少なくとも一部のゲノムが解読されたのは何十体にも及んでいると思う。しかしこの中で精度の高いゲノム解読となると、数は10分の1に減る。

同じゲノムを何回も繰り返して、しかも読み落としがないように解読することで、各ゲノムの比較精度が上がるだけでなく、両親から由来した各染色体を別々に再構成することが可能になり、昔から問題になっていた旧人類の近親相姦の程度や、あるいは集団のサイズなど、様々な情報が得られるようになる。従って、できるだけ保存状態のいい旧人類のDNAを探して高い精度でゲノム解読を行うことが地道に進められている。

今日紹介する論文はこの分野の創始者と言ってもいいドイツ・マックスプランク進化人類学研究所のペーボさんの研究室からの研究で、クロアチアのVindijaから出土した5万年前のネアンデルタール人のゲノムを30回繰り返して読むのに相当する精度で解読している。論文のタイトルはズバリ「A high coverage Neandertal genome from Vindija cave in Croatia(クロアチアVindija洞窟で出土したネアンデルタール人ゲノムの高精度解読)」だ。

これまで生きている人間のゲノム解読と同じ精度で解読されたネアンデルタール人ゲノムはアルタイ出土(12万年前)及び、デニソーワ人が発見された洞窟から出土(7万年前)した2体に限られていた。この研究はこれにVindijaで発見された(5万年前)を加えたと言うだけの話と受け取られるかもしれないが、精度が高いゲノム解析数を増やすことの重要性がよくわかる重要な貢献だ。

まず、この目的のために、着実に方法の開発が進んでいる。この研究では、古代DNAでは避けられないDNA分子の修飾をカウントして、最も可能性の高い塩基を推定するソフトが開発されている。このようなソフトが可能になるのも、30coverageという精度で配列が読まれたおかげだ。

次に、30 coverageの精度は、両親由来の染色体を分別することを可能にする。この結果、対立染色体の類似性から、集団のサイズ、近親相姦の有無などを正確に決定することができる。特に、アルタイ出土のゲノムには、極めて長い重複が見つかり、近親相姦がネアンデルタール人の多様性を奪ったのではと騒がれた。今回、デニソーワ、Vindijaのゲノムが調べられ、確かに対立染色体同士の類似性は、現人類と比べると高いが、アルタイで見られたような長い領域の重複は発見されず、ネアンデルタールと近親相姦を結びつけることは間違っていることを明らかにしている。しかし、対立遺伝子の類似性は、交流のある集団サイズが大体3000人であることを示しており、この結果としてゲノムの多様性が低下していることになる。

次に、ヨーロッパに分布したネアンデルタール人誕生後の歴史も推定できる。結論を述べると、約40万年前に誕生したグループが、この3箇所に分布し、その過程で民族とも言える多様性が生まれたことがわかる。以上の結果は、ネアンデルタール人として十羽一絡げで論じることの危険を示唆しており、「ネアンデルタール人もいろいろ」と考えることの重要性を示している。

最後に、我々現代人が最も興味の有る、旧人類・現人類の交雑による相関関係だが、今回解読されたVindijaゲノムは最も現人類と似ている。すなわち交雑によるゲノム交流が進んだ結果だが、現人類から旧人類へのゲノム流入は、Vindijaとアルタイが分離する以前に限られたいる一方、旧人類から現人類への流入は決して珍しいことではなく普通に起こっていたのではと結論している。その結果、我々東アジア人ゲノムの2.3-2.6%はネアンデルタール由来になっている。

最後に、ではどんなネアンデルタール遺伝子が我々現人類ゲノムに残っているのかだが、これまでの自己免疫抑制、うつ病、光皮膚反応などに加えて、高コレステロール血症、内臓脂肪蓄積、ビタミンD欠乏、摂食障害、リュウマチ性関節炎、統合失調症、向精神薬に対する反応異常として発見されていたSNPが新たにネアンデルタール由来であることが明らかになった。

この分野をウオッチしていると、いずれもなかなか意味深の結果で面白いが、それについての解説は、またいつか。
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10月7日:染色体立体構造維持に関わるコヒーシンの役割(Natureオンライン版掲載論文)

2017年10月7日
一般の人にはなかなか理解しにくい分野だと思うが、これまで何回も紹介してきたように、私たちのDNAは核内で全く規則性なく折畳まられるのではなく、きちっと大小の区分にまとめられて収納されている。もしこの区分が壊れると、染色体上での距離とは無関係に、極めて遠くにあるゲノム領域がもつれて関係のない遺伝子の近くに来てしまうことを防げない。その結果、各系列の細胞で厳しく制限される遺伝子発現が乱れ、細胞のアイデンティティーが失われる。この折りたたみを調節している主役が、CTCFとコヒーシンの2種類の分子で、以前紹介したようにCTCFが折りたたみの境界を定め、コヒーシンがDNAループの方向性を決めている。これが大きな枠組みだが、これらの分子の機能を欠損させた時細胞に何が起こるのかを調べ、詳細を詰める研究が最近加速している。

今日紹介するドイツ・ハイデルベルグにある欧州分子生物学研究所からの論文はコヒーシンを染色体にリクルートする分子を欠損させ、コヒーシンが働けなくした細胞で何が起こっているかを明らかにした研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Two independent modes of chromatin organization revealed by cohesin removal(コヒーシンの除去実験によりクロマチンの構造化に関わる2種類の様式が明らかになった)」だ。

この研究ではコヒーシン自体を除去する代わりに(この分子は他にも多くの役割があり除去すると細胞が維持できない)コヒーシンと染色体の結合に必要なNipblをタモキシフェン注射で除去できるマウスを使っている。マウスが成長してからタモキシフェンを注射、肝臓を取り出して調べると、期待どおりコヒーシンは染色体から外れていることが生化学的に確認される。

この状況でTADと呼ばれる染色体立体区域の形成を調べると、期待通りTADがはっきりしなくなっている。ただ、もう一つの染色体区域、コンパートメント化についてはそのまま維持され、転写がオンの領域と、オフの領域の区別がされている。一方、TAD形成のもう一つの主役CTCFの結合は変化ない。

ここまではほぼ予想通りの結果だが、この研究ではコヒーシンが除去されるとループがクラッシュする代わりに、TADより小さな単位の立体構築が強調され、またon型にコンパートメント化されている領域が中断され、中途に短いoff型のコンパートメントが挿入されることを発見している。この結果の解釈は難しいが、著者らはTAD構造を維持する機構がなくなることで、よりヒストンなどのエピジェネティックマークに依存する折りたたみが行われるようになった結果だと考えている。

コヒーシン除去の転写に及ぼす影響も調べており、TAD内のエンハンサーが作用しにくくなること、あるいは他のTAD領域の転写に介入してしまう確率が上がることなどを示しているが、それでも肝臓のアイデンティティーが失われていないのは、出来上がった細胞の転写が何重もの安全機構をもっていることを示している。

以上が結果で、この分野の進展の早さに驚く。発生学や転写に興味を持つ場合、難しくともこの分野には常に注目しておく必要があるだろう。論文を読むごとに驚きの尽きない、深い分野であることがつくづくわかる。
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10月6日:人間により誘発された地震データベース(Seismological Research Lettersオンライン版掲載論文)

2017年10月6日
私は地震についてはもちろん素人だが、大きな地震が人間の経済・軍事活動により誘発されるのではと言う懸念は常に頭の隅にある。例えば昨年、東日本大震災後の歪みにより、白頭山の噴火レベルが危険域に達してきたことをこのブログで紹介した(http://aasj.jp/news/watch/5160)。先日、北朝鮮が中朝国境に近いブンゲリで核実験を行った話を聞いた時、白頭山の噴火とその後の火山性地震を誘発するのではないかと、心配してしまった。ただ、これは決して私だけの懸念でなく、人為的要因で起こる地震については地震研究者も心配しているようだ。

今週号のNatureを読んでいる時、「Risk of human-triggered earthquakes laid out in biggest-ever database(これまで最大のデータベースにより人為的に誘発された地震の危険が示された)」というAlexandra Witzeさんのレポートが目に止まった。この記事は、人為的に誘発された地震のデータベースについて報告している英国Durham大学からの論文についてレポートしている。元の論文のタイトルは「HiQuake: The human induced earthquake database(人間により誘導された地震のデータベース:HiQuake)」で、Seismological Research Lettersオンライン版に掲載されている。

もともと人工地震で地質を調べることは珍しい話ではなく、人間の経済・軍事活動が地震を誘発することは昔から懸念されていたようだ。特に最近、シェールガス採掘などで大量の水を地中に注入し、また急速に抜く大規模な地殻操作が頻繁に行われるようになり、これが地震を誘発するのではと言う懸念が生まれ、その安全性を確認するためのデータベース構築の要求が高まっていた。

この要望を受けて、昨年オランダ最大の天然ガス田を運営するガス採掘会社の助成で英国のDurhamとNewcastle大学がマグニチュード1以上の人為的要因による地震のデータベースHiQuake構築を進め、今年の1月に一般公開できるところまでこぎつけた。データベースは一般に公開されており、ウェッブサイトで誰もが情報を得ることができる(http://inducedearthquakes.org/)ので、読者の皆さんが閲覧されればいいのだが、幾つか論文を読んだ上で補足をしておこう。

1) データベースに収載された地震で、人為的要因の関与程度は完全に科学的に特定されているわけではない。
2) それでも150年間に人為的要因が疑われる地震が700以上起こっおり、人為的要因としては鉱山事業、大規模ダム貯水、石油・ガス採掘で半分以上を占める。
3) ほとんどのケースで人的被害のない小さな地震で終わっているが、地中への水の注入により誘発されたM5.8の地震(2016)、大規模ダム貯水により誘発されたM7.9四川地震(2008)、そして地下水のくみ上げが誘発したと考えられるM7.8ネパール地震(2015)なども含まれており、大規模な地殻の操作は常に地震の危険と隣り合わせだ。
4) 我が国での地震についても22ケースがリストされているが、最も大きなものでM4程度で、大地震と言われるケースとの関係はこれまで特定できない。
などが言えるだろう。 素人の私だけでなく、プロの地震学者も人為的要因による地震を研究することの重要性を力説しているようで、少し安心した。
カテゴリ:論文ウォッチ

10月6日:H4K20ヒストンメチル化とX染色体遺伝子発現(9月21日号Cell掲載論文)

2017年10月6日
哺乳動物の場合、性決定にY染色体が関わっているが、ショウジョウバエや、線虫ではX染色体と、常染色体の比によって個体の性が決まる。詳細を飛ばしてザクッと言ってしまうと、普通はX染色体の数だけで性が決まる。このように最終的な性決定の仕組みは異なるが、これらの種共通の問題は、X染色体の数がオス、メスで違ってしまうことだ。そのため、X染色体上の遺伝子の発現を調節する仕組みをそれぞれの種は開発している。哺乳動物では、DNAのメチル化を利用して片方のX染色体全部の発現を抑えるX染色体不活化方法を取っているが、ショウジョウバエ、線虫などそれぞれメカニズムは異なっている。

今日紹介するカリフォルニア大学バークレイ校からの論文は、線虫でこの問題を研究する中で、新しいヒストン脱メチル化酵素DPY21を特定し、そのX染色体遺伝子発現量調節機能を明らかにした力作で、9月21日号のCellに掲載された。タイトルは「Dynamic control of X chromosome conformation and repression by a histone H4K20 demethylase(ヒストンH4K20脱メチル化によるX染色体構造と発現のダイナミックな調節)」だ。

線虫ではオスメスではなく、X染色体が2本の両性具有体と一本のオスに分かれており、両性具有体でX染色体の遺伝子発現を半分に低下させる必要がある。このメカニズムは詳しく研究されており、rexと呼ばれる場所を起点に多くの分子から構成されるDCC複合体が結合し、X染色体全体の転写を半分に抑えている。またこの時、X染色体特異的に20番目のリジンが一つだけメチル化されたH4ヒストンが染色体を覆うことがわかっている。ただ、これまでDCC複合体の中にヒストンのメチル化や、脱メチル化に関わる酵素は見つかっていなかった。

この研究では、DCC構成タンパク質の配列や構造を詳しく検討し、DPY-21がヒストン脱メチル化活性を持っているのではと着想し、期待どおりこの分子がH4K20にメチル基が2/3個付いたH4K20me2/3のメチル基を外してH4K20me1に変化させる活性があることを突き止める。

はっきり言って、この発見がこの研究の全てと言っていいだろう。あとはPY-21が実際に脱メチル化活性がX染色体の遺伝子発現調節に関わっていることを、酵素活性部位を失った遺伝子を導入した線虫を用いて調べている。結果を箇条書きにまとめると、

1) H4ヒストンのうちH4K20me1はX染色体上で、常染色体の2倍多く存在している。
2) このX染色体特異的変化は、すべてDPY-21の脱メチル化活性によっている。
3) このメカニズムは、200細胞期を超えた後、体細胞のみで働き、特に細胞周期の間期に働いている。
4) 脱メチル化活性がなくなると、X染色体上の遺伝子発現のみ上昇し、さらに普通はこの機構が働かないXが一本のオスで働くようにすると、遺伝子の発現が低下してオスは死んでしまう。
5) H4K20me1は染色体の3次元構造を調節して、エンハンサーとプロモーターの相互作用を変化させ、微妙な遺伝子発現調節を行っている。
6) 生殖細胞での遺伝子発現にも同じメカニズムがDCC非依存的に利用されている。

になるが、全てDPY-21がH4K20特異てき脱メチル化酵素であることの発見あっての結果だ。

この論文では、哺乳動物に存在する同じ活性を持った酵素も特定しており、哺乳動物でのH4K20me1の機能も明らかになると思うが、染色体の3次元構造を変化させて、インシュレーターの作用を調節するという魅力的活性があることから、急速に研究が進む予感がある。
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