実際先週だけでもNature Medicineにステージ4メラノーマの患者さんの末梢血リンパ球の単一細胞レベルの解析から、CD14陽性CD16陰性HLA-DR高陽性細胞とPD-1抗体の効果が相関することを示す論文が、The New England Journal of Medicineに突然変異の数と効果の相関の総説などが発表されていた。これは当然のことで、一部の患者さんに効くからと適用を拡大する従来の方法では全く能がないと言わざるをえない。
と最近の研究方向を評価した上で、それでもNatureに掲載していいのだろうかと疑問を感じたUCLAを中心にした論文を紹介する。タイトルは「High response rate to PD-1 blockade in desmoplastic melanomas(線維形成性黒色腫はPD−1阻害治療に高率に反応する)」で、今週発行のNatureに掲載されている。
この研究では病理診断を行った1058人のメラノーマ患者さんの臨床経過を掘り起こして、PD-1阻害治療に対する反応性を、desmoplastic melanoma(DM)と他のメラノーマの患者さんと比べている。結果だが、普通のメラノーマでは通常2−3割でしか見られない治療の効果が、なんと7割の人で認められる。これはすごい結果で、DMと診断できたらまずPD1阻害療法と決めて良さそうだ。 確かにこの研究から 1) DMは他のメラノーマと違って、B-RAFやRASのようなガンのドライバーが変異しておらず、化学療法が効きにくい。 2) ほとんどの患者さんが既にCTLA4治療を受けており、その上でPD-1阻害療法に転換されている。 3) NF1の変異があると、一般的に突然変異の数が多い。 など今後この治療の効果予想をするための重要なヒントが存在する。しかし、論文に示されたデータは、なぜこのガンで効きやすいのか結局明確な答えを出さないまま終わっている。要するに、メラノーマのうちDMはPD-1阻害治療が効くというタイトルにあるメッセージで終わっている。
最近Natureも臨床研究をよく取り上げるようになっているのは、当然のことだろうと思う。また、効果が高いというメッセージは患者さんへのインパクトも高く、general interestを重視する編集方針にマッチしているとは思う。しかし、この論文のように、全くメカニズムに関わる検証をスキップして現象論でいいのかは疑問に思う。
論文の書き方も少し不純なものを感じる。例えば最初のセンテンスで「DMはまれなガンで、厚い線維性の間質に囲まれ、治療の標的がなく、紫外線によるDNA障害と関連している」と書かれている。これを読むほとんどの研究者、一般読者は、普通のメラノーマよりはるかに悪いガンかという印象を持つと思うが、全体で見たときの5年生存率は他のメラノーマより良好なことが多い。
いかにこの分野が過熱しているとはいえ、Natureこそメカニズムに対して新しい結果を示した論文だけを掲載して欲しいと思う。事実、NF1と突然変異の数など、面白い問題が満載の論文であることは間違いないが、「あとはどうぞご自由に研究してください」では困る。
カテゴリ:論文ウォッチ