しかしこの雰囲気が、チェックポイント治療登場でかなり変わってきたように思える。昨年9月に紹介したCellの論文のように、ウイルスで一部のガン細胞を殺し、マクロファージに処理させてガン免疫を高め、チェックポイント治療効果を高めるという戦略だ(http://aasj.jp/news/watch/7362)。
今日紹介する英国リーズ大学中心に発表された論文は、チェックポイント治療とガン溶解ウイルスとの併用がどの程度可能かを実際の患者さんで調べた研究で1月3日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Intravenous delivery of oncolytic reovirus to brain tumor patients immuneologically primes for subsequent checkpoint blockade(静脈注入したガン溶解レオウイルスは脳腫瘍に到達し、続くチェックポイント治療の準備をする)」だ。
アイデアも、研究としての手法も別段注目するほどの研究ではないのだが、ほとんど治療手段のない高グレードグリオーマの患者さんを対象にここまでの実験研究をやるのかと感心したので紹介する。
グリオーマにガン溶解性ウイルスを用いる可能性はこれまでも研究されているが、多くの場合、ガンに直接ウイルスを注射する方法が用いられる。これは、ウイルスが脳血液関門を越えて、脳内に移行しにくいと考えられているからだ。しかし、もし注入のしやすい静脈ルートなら臨床応用も容易になる。さらに、ガン局所では脳血液関門が壊れているという報告もある。
そこでこの研究では、
1) このグループが研究してきたレオウイルスを静脈注射した時、脳内のグリオーマに到達するのか、
2) グリオーマに感染することで、ガン免疫を誘導している可能性があるか、
を確認するため、9人の患者さんに高濃度のレオウイルスを注射、3−17日後に摘出した腫瘍で、
1) ウイルスがガン細胞に感染しているか、
2) ガン局所で免疫反応が上昇しているか、
3) チェックポイントに関わる分子の発現に変化があるか、
を調べている。
おそらく、この患者さんたちはチェックポイント治療は受けていないのだろう。全員が平均469日で亡くなっており、これはこのガンの一般的な経過と同じだ。すなわち、全員が将来に向けた貴重な資料を残すためだけに治験に参加してくれたことになる。
この解析から、
1) ばらつきは大きいが、ウイルスは脳内に到達し、ガン細胞の一部、特に分裂中の細胞に感染が確認されるが、正常組織にはほとんど見当たらない、
2) ガンの一部の細胞死を誘導できる、
3) キラーT細胞の浸潤がウイルス投与で高まる、
4) おそらくインターフェロン誘導を介して、PD-1及びPD-L1の発現が高まっており、チェックポイント治療の対象になる、
5) マウスを用いた実験では、レオウイルス静注に続いてチェックポイント治療を行うと、生存期間が伸びる、
がわかった。
実際のデータを見ると、本当にこれでチェックポイント治療の効果を高められるのか、疑問に思うが、静脈投与でウイルスは脳に到達することから、次はチェックポイント治療と組み合わせた治験を行って、今回参加された患者さんの意志に報いてほしいと思う。
カテゴリ:論文ウォッチ